He can who believes he can

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…え 違う場所いけっ!と念ずるも虚しく、こちらに向かってくる 恐怖心で血の気が引き、震える手で携帯をカバンから取り出すと気付いたら電話をかけていた 「大宮くん助けて!変な男の人がついて来てる!」 一瞬、相手に間があったが、直ぐに 「取り敢えず女子トイレとかに移動して、それでもその人が入ってきたら店の人に言うんだ 今どこ?」 と言われた 「うん、わかった…今乗り換えの駅前にあるデパートの中…」 「わかった、待ってて トイレに隠れてるんだよ!」 そう言うと電話は切れた 私は向かってくる男の人から距離を取り、100円ショップの向かいにあるトイレに一目散に駆け込んだ トイレに逃げこむけどもう密室に近い だって行き止まり ここでさっきの男の人が入ってきたらアウトだ 田舎町の、このデパートは閑散としていて、買い物客はまばらだ 当然、この場所を利用する人も皆無に等しい 大きな鏡を背にして、入り口から死角になる場所に身を潜めた どうか、ここまでは来ませんように…! 遠くの方でお客さんの小さな足音たちが響いている 恐怖心で携帯を握り締めると途端に振動した 直ぐに携帯に耳を当てる 「どこ?」 電話口では息が途切れ途切れの大宮くんの声がした 走っているみたいだ 「三階の、女子トイレ!」 誰かが近付いてくる足音がする 「あれか?」 電話口と外の声が一緒の言葉を発した 直ぐさまトイレから出る 目の前に大宮くんを見つけると飛びついた 「良かったー大宮くんだあ…! はあー…怖かったあ…」 大宮くんは硬直しているようで動かない はっとして、大宮くんの胸元に埋めていた上体を起こし、少し離れた 「あっ…あの、ごめん…なさい」 取り乱して大宮くんに抱きついた自分が、安堵したら急に恥ずかしくなって、しどろもどろになる 「まあ、良かった…無事で」 俯きながら大宮くんが呟いて、踵を返しエレベーターに向かって歩き出した 気まずい空気の中、私も後を追おうと一歩踏み出た瞬間 大宮くんが振り向き立ち止まる え? 大宮くんが一歩戻り、手を伸ばすと私の手を掴んだ え… それは 手を繋ぐ、って言うより握る感じ エスコートしてくれてるような、そんな感じが伝わってきた 「さっき辺りを見ながらここに来たけど、そのストーカーみたいな男?はいなかったと思う どっか行ったのかもね」 「そっ…そっか!良かったー!」 意識が手に集中してしまう気持ちを振り払うように、明るく答えた 手を握られながら、辺りをキョロキョロ見る この状況、周りの人はどんな風に思っているだろうかと気になってしまう 「恋人」に、映っているのかな、とか そんな邪な気持ちを振り払うのに必死な私を、知ってか知らずか 大宮くんは手を握りながらも、相変わらずの、何事にも無関心かのような態度で、一歩先を進む デパートを出て駅に向かって歩くが、電子掲示板を見るや、自分が乗る電車がさっき出ていた事に気付く 「うわー…私の電車、さっき出たみたい、最悪ー… 大宮くんは?」 「俺はもうそろそろ来る」 「あっ、そか、電車待ってた?よね? ごめん、さっきは無理矢理呼び出して迷惑かけちゃって… 怖くて必死になってたら、気付いたら大宮くんに電話しちゃったよ、ははっ でもありがとう!来てくれて嬉しかった」 「別に…」 「もう電車来るよね、ほんとにありがとう!また明日ね!」 私は手を離して、その手を振って大宮くんを見送った が 「佐和子が乗る電車来るまで待つよ」 えっ? 「いやいや、いーよいーよ!電車くらい一人で待てるよ! 今度は変な人に追われないよう、ホームの椅子に座って大人しく待ってるしさ!」 最後は冗談を交えて返した 「いや、いいよ」 何故か大宮くんは語尾が少し怒り口調で、さっき離した手を今度は強引に握ってきた 大宮くんは左の手で胸ポケットから定期券を出すと、改札を通した 私も慌てて改札を通す 大宮くんの右手は私の左手を握ったままだ 私の自宅がある方に向かう電車のホームに着くと、空いていた椅子に腰掛けた 大宮くんはさっきから無言だ なんか変なこと言ったかな、と思いながら気まずくなって、そうだと思い出し、右手でカバンからさっき買ったお菓子を取り出した 「じゃーん!これさっき買ったお菓子! 待ってる間一緒に食べよ!このお菓子、私一番好きなんだ!」 船の絵が描いてあるチョコレート 「あ、それ美味しいやつ」 ほらほら、お菓子を見せると機嫌良くなるんだから 大宮くんの太ももにお菓子の箱を乗せ、チョコレートを一緒につまみながら電車を待った さっき一番端のホームでは、大宮くんが乗る電車が発車したのを見送った 私の電車は後30分くらい来ない 「電車、一緒に待ってくれてありがとう」 「いいよ、心配だったから 気にしないで」 「あ、うん…」 心配、って言葉が妙に嬉しくて 電話して、迷惑かけちゃったのは私なのに はにかむ自分を抑えられなくなる 「…佐和子」 「ん?」 「明日からこの駅で待ち合わせして学校行こう?一緒に」 え 心臓かドクン、と跳ねた 一緒に… 「俺と一緒にいれば、今日みたいなことは起こらないと思うしさ、不安じゃなくなるでしょ?佐和子も…俺も」 俺もって…それって…どういう意味…? 「べ、別に…まあ…いいけど…」 嬉しいくせにそれを悟られるのが恥ずかしくて、素直に答えられない フッと鼻で笑われた 「可愛げないなー」 「なっ…」 「誰のせいでこんなことになってるんだか」 「あっうっ…いや、ごめんなさい」 「はいはい」 手は握ったまま まだ電車は来ない もう少しだけ もう少しだけこの時間が続きますよう… 次の日から私は大宮くんと駅で待ち合わせをして、登下校する日々が始まった 「おはよ」 「おはー」 待ち合わせして登下校するが、手を握ったのはあの日だけだ まあ、付き合ってるわけじゃないし、当たり前なんだけど 「あ、また寝癖付いてるよ?」 「うそ、どこ?」 「ほらここ、っと…よし直った、大丈夫大丈夫!」 「ありがと…」 「ちゃんと朝鏡見て来てるの? 大宮くん、ほんと、自分のことに無関心と言うか、興味ないのかわからないけど、身だしなみくらいはちゃんとした方がいいよ?」 何故か、大宮くんと接する時は、気心知れた昔からの友人のような、世話の焼ける弟みたいな、そんなやり取りの会話になってしまう それは最初に会った時から感じていたことだったのだが、これがもし、仮に、「恋人」関係になったら少しは変わるのだろうか? 大宮くんは電車を待ってる間、鞄からお菓子を取り出した 「ああ!もう大宮くんまたお菓子食べるの? 太るからお菓子は明日からやめるって言ってなかったっけ?」 「 昨日はそう思ってたんだけどさあ、今日は今日で違うことあるじゃん?」 「なにそれ…」 お互いこんな調子で、あの日の出来事は嘘だったんじゃないかと思えてくる でも、それでもよかった あの日以来、なんだか大宮くんとの距離がぐっと近づいたような気がしたから 最近、私は放課後図書館に寄ることが増えた 図書館にパソコンが設置されたからだ と言うか底辺高校だからか、今までパソコン教室以外でパソコンが設置されていなかった そのパソコンで色々な仕事の内容を調べて、自分の将来ヴィジョンを考えるのが日課になっていた 「佐和子さん」 図書館の入り口から声がして見ると、先生だった 時計を見上げるともう18時 先生は図書館を閉めると言うので、私は図書館を出る 携帯を見ると、着信が入っていた 「あっ!」 着歴は全部大宮くん 放課後、図書館で調べ物終わったら連絡する、と伝えてから今まですっかり携帯を見ていなかった そう思った瞬間、大宮くんから着信があった 「メールしたのに返信ないから…何回も電話しちゃったよ」 「ごめん、気付かなかった!」 「学校の隣の神社に今いるから」 えっ… まさか、放課後から2時間くらい経つけど、その頃から待ってたって事だよね…? こんな時間になると思ってなかったから、今日は先に帰って貰ってればよかった… 慌てて昇降口に向かうと、外は雨が降っていた 「うわ、マジ? 置き傘教室にあったかなあ…」 そう独り言を言った瞬間 「佐和子」 大宮くんの声がして振り返った 「あ、大宮くん!ごめんこんなとこまで…ちょっと傘あるか教室「じゃあ一緒に駅まで傘、入ってく?」 え 二人で一つの傘に入って学校を出る いつも一緒に帰っているのに、今日は雨のせいでより大宮くんに近い 無駄に意識してしまう自分を振り払うように、外の景色をいつも以上に眺める 「ねえ佐和子」 「ん、な、なに!?」 「お腹空いたから、そこのファミレスでご飯食べて帰らない?」 「え? あ、うん、いいけど」 私たちは少し寄り道して、ファミレスで夕飯を食べていくことにした 「そういえば、進路は決まった?」 「うん、一応大学に進学しようと思う」 「お、大学か」 「うん、漫画以外にやりたい道未だに見つからないけど、4年間もあればなんかやりたい分野、途中で見つかるかなって」 「浅はか」 「だって、美大とか美術系以外には本当、やりたいことが全く見つからなくて…」 「美大行けないなら進学にこだわらなくても、就職でもいいんじゃない? 働きながら漫画家になれないわけじゃないし、大学進学も学費安くないよ」 「これは私のワガママだけど、進学は、ってか大学は出ておきたいんだよね 将来、漫画家になれなかった時の保険として、大卒って言う資格は持っておいた方が就職の幅が広がるし それに、今まで美大とか美術系の学校に進学したくて、成績上位キープしてきたのに、それが無駄になるのも嫌だし…」 何の為に、したくもない勉強で自分を犠牲にしてると思ってるんだ 「親は大学進学にも反対してないみたいだし、甘えられる時期には甘えておこうと思って だって大人になって成人したら 嫌でも自分独りで生きていかなきゃならないんだから」 いつまでも、私達は親の子供だけど、子供のままではいられない 少し、の予定が気付けばもう20時近くになっていた 「うわっ!ちょっと大宮くん!ヤバいよもう20時じゃん」 「お、ほんとだ、帰らなきゃな」 慌てて店を出ると、さっきまでの雨はすっかり止み、街灯に照らされた水たまりがキラキラと反射していた 「あ、雨やんでるね、よかったじゃん」 大宮くんは傘を閉じた 「あ、うん…ほんとだ、よかった…」 ような、よくないような ちょっと複雑な気持ちになりながら、駅までの道を歩き出そうとした その時だった 大宮くんが私の手を繋いできたのは 「えっ…」 びっくりして振り向く 「あ、夜遅いし危ないから、こんな時間まで付き合わせちゃったし…」 大宮くんは早口で言うと視線を逸らした 重なる手と手 今度はちゃんと、手を繋いでいる 私は思わずふざけて、恋人みたいだね、と照れ隠しで口走る 「そうだね」 大宮くんは私の照れ隠しにも笑わず、真顔で答えた 街灯に照らされ、影の出来た大宮くんの顔 急に心拍が上がる そうだね?そうだねってどういう意味…?
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