初恋模様

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 ────……恋に落ちるなんて、きっと些細なきっかけ。  例えば、同じクラス。隣の席。たまたまそうなっただけ。  例えば、同じ電車に乗ってただけ。学校が始まる時間は決められているんだから、だいたいみんな同じような時間帯の電車に乗る。  例えば、じゃんけんで負けて委員を押し付けられただけ。環境美化委員なんて、単なるお掃除係りだって思ってる。だからみんな面倒臭がってやりたがらない。  例えば、例えば──……  放課後の委員の仕事で帰るのが遅くなっても、同じ駅を使っていれば歩いて行くのも同じ方面。一緒に歩いても不思議はない。同じ委員をやってるんだから、委員の仕事の話をするのも当たり前。良く脱線もするけれど。  委員を一緒にやる前より打ち解けて話せるのも当たり前。話し方や、笑い方、歩くスピードや、車道側を歩くのも、どんどん知っていくのも。知りたくて知っていくわけじゃない。  ──例えば、こんな雨の日の帰り道。  急に降り出した雨に、小さな折り畳み傘しかなかった。ひとりだけ傘を差して歩くのは忍びないし、駅まで走って行ってしまうのを見送るのも何だかいや。  だから、一緒に入る? と提案するのは至極自然な流れで。一緒に入って歩く傘の中がこんなに緊張するとは思っていなかった。  歩くと軽くぶつかる肩や、狭い分、いつもより耳元で話す声。傘を差してくれている、思ったよりゴツゴツしている手。  例えばこんな、些細なこと。  駅に着いて傘を受け取った時にさりげなく触れた手指。思ったより熱かった。ふと気付く、かなり濡れている右側。雨の湿気だけじゃなさそうな耳の赤み。  じゃあ、また明日、と言われた時に、思わず繋ぎたくなった手。心臓がドクドク云って、いつまでもその後ろ姿を見ていたくなる。顔が、耳が暑いのは湿気だけのせいじゃない。  こんなこんな、些細なきっかけ。  雨の日だろうと、雪の日だろうと、心が踊る。身体がふわふわと浮かぶよう。  恋をするなんて、こんな些細なきっかけの、大きな冒険──……
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