名もなき墓の話

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名もなき墓の話

 これは、私の家の墓の話だ。  ウチの山には、ご先祖様のお墓がある。  二百年以上前の古いものから、最近のものまで。全てあるそうだ。  その中で唯一、墓石も戒名もない竹をさしただけのお粗末な墓がある。  「これは誰? どの時代の人?」  と私。  「私も知らん。父さんも知らん。おじいさんも知らんかった。誰も知らんと思う」  と、母がさーっと流れるように言った。  隅に追いやるように作られた墓。  お参りの時は一番最後に。  供え物はなるべくしない。  手入れは最低限で。  何故このようなお粗末な扱いなのか。  「なにかをやらかして、こうなったんやろう」  今でも母のひと言が気になっている。
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