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Part2/3
それから2ヶ月ほど後、
それは、あまりに突然の知らせだった。
『政府により採択されたのは、
[改訂 環境換者集約法]法案です。世界全体のDT29の空気中濃度が生存限界に近づきつつあることから、我がN国のデポルーターのDT29吸収量を、約2倍に増やすという計画です。』
突然後ろから頭を殴られたような錯覚に陥る。
視界がゆらゆらと揺れ不安定になる私の耳に、無機質なニュース音声で情報が流れ込んでくる。
『政府はデポルーター内の換者の身体に影響はないとしていますが、国内外の専門家からは懐疑的な意見も寄せられています。
しかし、この計画に対して諸外国からの期待の声が大きいのも事実であり、早急な議論が求められています。』
頬を冷や汗がつたい落ちる。
うるさいくらいの静寂が、私を孤独に包んでいた。
その日から、日常は大きく変わった。
[改訂 環境換者集約法]法案を巡って、世論は『換者擁護派』と『計画推進派』に真っ二つに割れた。
N国だけでなく世界の各地でデモ活動が活発化。
当然N国内が安定しているはずもなく、デポルーターを抱えるこの街も、至る所で煙や怒声が上がるようになっていた。
私たちのような学生はその混乱を避けるように通学し、できる限り通常の授業を試みた。
しかし付近でのデモ活動や政府軍との小競り合いは留まるところを知らず、世間に満ちる不穏な空気は確実にかつての日常を飲み込んでしまった。
家路につきながらそんなことを考えているあいだにも、遠くで何かが炸裂する音、人の声、パトカーのサイレンがこだまする。
最近はデポルーター付近での暴動やデモが多いらしいので、そちらの方だろうか。
車のフロントガラスの破片。
法案反対のビラの切れ端。
元はなにか分からないほど燃え尽きた何か。
ひび割れたアスファルトの地面に、人々の反抗の跡が、対立の傷が、散乱している。
いつからこんなことになったのか。
2ヶ月前に法案が提出されてから?
違う。
DT29を、この街が、『換者』が、請け負うようになってから。
この街に、デポルーターが建った時から。
すでに、何かが歪んでいたのだ。
人々の視点も。世界のバランスも。
誰も気づかない歪みが、誰も気づかない透明な箱の中で、肥大し続けていたのだ。
誰も気づかなかった。
毒を吸い続けたこの街が、崩壊を始めるまで。
涙が溢れる。視界が滲む。
その瞬間、
地を揺らすような轟音と共に、空気が震えた。
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