4 溢流

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「これが魔の法律。“あれ”を感知できぬ者には使い方が全くわからんそうだ。信じられんな」 「嘘だろ」  詩紅の言葉に天使は驚きの表情を見せる。  括達同様魔の法律を理解していない匠善は、困惑気味に詩紅に(たず)ねた。 「いや本当に、なにがなにやら。そんな簡単にできるものなのですか?」 「簡単だぞ。あれが複雑だったり怪力が必要だと、時間もかかるし疲れるがな」  詩紅はひとつ息を吐くと、気軽い表情を真摯に改め、天使に告げた。 「目覚めたときにも言ったが、この力で狼波には、魔物の討伐を手伝ってもらいたい」  覚醒直後に形式張って告げた言葉。  当時返答はなかったが、砕けた言葉であれば届くのだろうか、括達は天使を(うかが)う。 「十二人の導護師が、入れ替わりもあるだろうが、狼波の良いように一生面倒を見る。狼波が討伐することに意味があるんだ。天使がいればいつの時代も安泰であると、多くの人間を安心させることができる」 「いやだ」  反応は予想通り。  詩紅は態度を変えずに問う。 「なぜだ」 「うるせーんだよ。静かになって清々(せいせい)してんだ」  言葉の選択が歓迎できない。  詩紅が使う言葉ともまた違う。  天使の、狼波の本来の気性なのではないだろうか。 「うるさい、か。眠っている間のことか?」 「そうだ。一方的にああだこうだ言いやがって。てめぇでやれよって、ずっと言ってんのに誰も聞かねぇ。ふざけんな」  天使は眠りの間、聴覚以外の自然を超えた感覚で人々の声を聞くらしい。  視覚等他の感覚が入り込むことでその声も遠くなるという。  眠りの合間ひたすら拒否し続け、静かになった今に満足し、そこに(とど)まっていた。  この先、変化などあるのだろうか。 「まあ、そうだな」 「そうでしょうか。天使が我々の助けなしで生きることは不可能。我々が無意味にあなたを助けていると思わないでいただきたい」  一方的ではない。  こちらがなにかを言う代わり、こちらも天使の意思を尊重しながら、礼儀を尽くし丁重(ていちょう)に扱ってきたはず。  括達は天使を見据える。  無礼な天使に、無礼を自重する意味はない。
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