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「これが魔の法律。“あれ”を感知できぬ者には使い方が全くわからんそうだ。信じられんな」
「嘘だろ」
詩紅の言葉に天使は驚きの表情を見せる。
括達同様魔の法律を理解していない匠善は、困惑気味に詩紅に尋ねた。
「いや本当に、なにがなにやら。そんな簡単にできるものなのですか?」
「簡単だぞ。あれが複雑だったり怪力が必要だと、時間もかかるし疲れるがな」
詩紅はひとつ息を吐くと、気軽い表情を真摯に改め、天使に告げた。
「目覚めたときにも言ったが、この力で狼波には、魔物の討伐を手伝ってもらいたい」
覚醒直後に形式張って告げた言葉。
当時返答はなかったが、砕けた言葉であれば届くのだろうか、括達は天使を窺う。
「十二人の導護師が、入れ替わりもあるだろうが、狼波の良いように一生面倒を見る。狼波が討伐することに意味があるんだ。天使がいればいつの時代も安泰であると、多くの人間を安心させることができる」
「いやだ」
反応は予想通り。
詩紅は態度を変えずに問う。
「なぜだ」
「うるせーんだよ。静かになって清々してんだ」
言葉の選択が歓迎できない。
詩紅が使う言葉ともまた違う。
天使の、狼波の本来の気性なのではないだろうか。
「うるさい、か。眠っている間のことか?」
「そうだ。一方的にああだこうだ言いやがって。てめぇでやれよって、ずっと言ってんのに誰も聞かねぇ。ふざけんな」
天使は眠りの間、聴覚以外の自然を超えた感覚で人々の声を聞くらしい。
視覚等他の感覚が入り込むことでその声も遠くなるという。
眠りの合間ひたすら拒否し続け、静かになった今に満足し、そこに留まっていた。
この先、変化などあるのだろうか。
「まあ、そうだな」
「そうでしょうか。天使が我々の助けなしで生きることは不可能。我々が無意味にあなたを助けていると思わないでいただきたい」
一方的ではない。
こちらがなにかを言う代わり、こちらも天使の意思を尊重しながら、礼儀を尽くし丁重に扱ってきたはず。
括達は天使を見据える。
無礼な天使に、無礼を自重する意味はない。
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