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5 諦念
馬鹿らしい。
血族の務めであるから、選定され必要とされたから、偽善的な部分に目を瞑り誇りを持って導護してきた。
尽力の見返りが皆無では、自身を騙し切れない。
「全ての行動は種の存続に起因します。互いに理解し信頼関係を結ぶことで、物理的にも精神的にも相互に充足し、人は永く栄えてきた。我々があなたを導き守ることであなたの命は存続し、巡り巡って我々も周囲の人々も穏やかに過ごせるはずでした。ですが」
先代の天使は眠りの中届く人々の声に憂慮し、特殊な立場や技巧を授かっていることに感謝すらしたと聞く。
狼波にはそれが全く以てないようだ。
天使の導護は狼波にとって不要なもの、現に拒否の声ばかり聞く。
要らぬものを施すことに自身を消耗するなど、本当に馬鹿らしい。
「あなたは天使を信じ行動する信徒の願いをうるさいとおっしゃった。穏やかな日々は来ない、導護してもなんの利益もないようだ。あなたが私の存続に関わりのない存在ならば、私はあなたの存続を守りたいとは思えません」
その刹那、狼波の穢れない長髪が翻ったように見えた。
ありえない事態に目を疑う。
気付くと狼波が眼前に、僧兵服の胸元を鷲掴みにして激昂していた。
「おまえらの存続なんて知るか! 俺は俺の存続にしか興味はない! なんで俺がこんな」
唐突に言葉が切れる。
瞬時に狼波の膝が抜けたと察し、括達は決して怪我をさせぬよう身体を張って抱え込む。
呆然と先刻を思い返す。
狼波が足早に、寝台を下り自分に詰め寄った。
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