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しかし、さほど進まずに括達は歩みを止めた。
門前街に古くからある土産物屋の露店。
碌堂の浜辺で採れた美しい貝殻を壁飾りや装飾品に仕立て上げた名産品、いくつか万丈の間に置いてあるが色とりどりに並ぶ様はまた違うのではないか。
『天使の装飾品としては役不足ですが、綺麗なものでしょう』
声掛けしたが返答がない。
離れようとすると、止められた。
『待て。まだ全部見てない』
『全部見ていたら夕拝に間に合いませんよ』
『役不足だから部屋にあまりないの? 俺はこういう』
言葉が途切れると同時に、右手が動いた。
『こういう、空のような色が欲しい』
「え……」
括達は思わず声を上げた。
手のひらが淡い空色に彩色された貝殻の山を指し示している。
いくつ買うかと問う売り手に首を横に振り、括達は踵を返して市場の奥に向かい大股で進んだ。
『あー……、怒った? 帰るの?』
諫めたい気持ちは多分にあるが、他にも多くの思考が浮かぶ。
取捨選択し理路整然と語りたかったが、全て見えてしまうのではないか。
括達は諦めて、浮かんだ思考を暴露した。
『思わぬ動きをされたから驚いただけです。無断で動いたことを帰って叱りたい気持ちは山々ですが、狼波に見せたかった露店へは折角なので連れて行きます』
見せたかったとはどういうことか、言葉にならない思考が浮かんだが、やはり考えることに抵抗がある。
焦りを抑えて、括達は言葉を継いだ。
『ここは“申し訳ない”と謝罪し、私の怒りを鎮めるべきだ。私は怒ってなどおりませんでしたが、怒ったと思ったのなら謝罪して下さい』
謝罪の強要など、自分はおかしなことを言っている。
だが思ったままのことだ。
無断で動いたことはどうでもよいが、間違いを犯し、怒ったかと聞きながら謝罪もなく、狼波の望む市場の奥へと咎めもなく進んでいることが腹立たしい。
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