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筋が通らないと指摘されるかと構えたが、大して間を置かず狼波の思考が返ってきた。
『申し訳ない』
狼波は欲に忠実で、善意で解釈すれば素直だ。
言葉は眠りの中で覚えた乱雑なものだが、貝殻を丁寧に指し示した手のひらは導護師が教えたものだった。
括達を怒らせたことを認め、怒りを鎮めて自分の望むものを手に入れようと、言われるままに謝罪した。
どういうわけか怒りは鎮まり、歩調が落ち着く。
善意で解釈してよいものか。
寄生されている今、突き詰めることはできなかった。
異国の硝子細工が並ぶ露店で、空と海と雲をないまぜにした風情の文鎮を買った。
昨日ここで迷った末に店を変えたのだが、狼波は一通り見た後、迷わずそれを選んだ。
買わずにいてよかったと括達が胸を撫で下ろしていると、狼波の思考が響く。
『こんな面白いことしてこんな凄い物買ったらさ、帰ってから結構面倒なことさせられるのか?』
不安というより、潔い諦めに聞こえた。
凄い物と言うが宝石よりも相当安価で、先程まで狼波の満たされた気分を感じていたから、それを面倒と引き換えることに気が引けた。
『行動ではなく、言葉を返すという手段もありますよ』
先程謝罪を欲したように、言葉で十分だと思った。
『ありがとう?』
状況を判断し適切な言葉を選んだことは評価したい。
しかし謝罪同様心が伴っていないことで不満が湧いた。
『なにに対してその言葉を返しているのか、ちゃんとわかっていますか?』
『身体借りたのと、しくじっても帰らなかったのと、文鎮買ってくれたのに対してだろ?』
改めて列挙すると感謝の言葉と引き換えるには釣り合わない気もしたが、理解しているようなのでよしとした。
『まあ、いいでしょう。どういたしまして』
『これでいいのか。いいこと聞いた』
誤った導きかたをしてしまっただろうか。
この先恩を全て言葉で返されはしないかとわずかに懸念しながら、括達は雑踏を縫うように神殿へと引き返した。
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