8 自尊

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 夕拝前の神殿内は、人は見られるが静かなものだった。  ここを駆けることは(つつし)むべきだろう、粛々と上層への階段へと向かうと、祭壇の前に数人の僧侶と大祭司を確認した。  一礼して通り過ぎようとしたが、大祭司が呼び止める。 「こんな時間になにをしている」  他人には情け深い顔を見せるのに、身内にはどうしてこうも冷徹な視線を向けるのか。  父六䧧(りくぎ)は長身痩躯に鋭利な顔立ち、周囲からは温和で謙虚だと評されるが、純白の法衣に贅沢な肩掛けを(まと)っても自分には全くそうとは思えなかった。 「天使の(つか)いに出ておりました。急いでおりますので失礼します」  小言を聞いている暇はない。  再度一礼して背を向けたが、背後から声が掛かる。 「表が騒がしいが、夕拝までには(おさ)めると他の者にも伝えてくれ」 「(うけたまわ)りました」  小言では、なかった。  大祭司は狼波が天使の務めを果たすようになってから天使導護の方針に提言することが減ったらしい。  以前は詩紅の提案にほぼ難色を示したそうだが、今では全て承諾していると聞く。  教会がつつがなく回ればそれでよいということだろうか。  ともあれ、引き止められず、助かった。  導護師以外立ち入れぬ万丈の間への階段に辿り着き、括達は無心で上層へと駆け登った。
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