9 錯綜

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 括達は目を(つむ)る。  もう深く思いを巡らせても狼波には伝わらないだろう。  何故(なにゆえ)、自分などにそこまで(すが)ったか。  種の存続に関わりのない人間は切り捨てると、自分は狼波に明言している。  括達は目を開き、(かす)かに震える狼波を見下ろした。  そもそも、自分のほうこそどういうわけか。  天使の存続を守れぬと言いながら、謝罪のみで(あやま)ちを相殺し、危機を回避しながら感謝の言葉など不要と思う。  支離滅裂、導護師として不完全。  いや、内心を読まれる恐れさえなければ、熟考し適切な発言をできていたはず。  自身を(いつわ)りきれたはず。 「そのような厄介事があるのなら、何故括達に行かせたのですか。もし大事(だいじ)が起きていたなら、この(たび)は詩紅の責任ですからね」  湖鳳のきつい物言いに、括達は自問を止めて導護師二人を見やる。  眉を(ひそ)める湖鳳に対して、詩紅は飄々としたものだった。 「早々に大事ではない災難に遭ったのは幸運だぞ。災難は実際()ってみぬと対処法が身に付かぬ」  問題点は前もって指導した、今後同様の事態が起きたとして対処可能になったであろうと詩紅は言う。 「入り口の異教徒もだ。寄生しながら初めて遭遇したのは幸運だった。狼波、あれは危険だ。今から肝に銘じておけ」  振り返ればそうだった。  狼波は取り乱したが代わって括達が冷静に難を逃れ、只ならぬ姿を晒すこともせずに済んでいる。 「(おび)えているのに、そのように言わなくてもよいでしょう。先代も異教徒には不安を感じていらっしゃいましたが、危険なことなど一度もありませんでしたよ。導護師がついているのですから」  一転して(おだ)やかに語る湖鳳の温情は先代に対するものにも思えるが、今の狼波に必要な言葉であろう。  先程の事態は導護師にとって容易に(かわ)せる案件、身をもって理解してもらえたならよいのだが。
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