10 内観

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10 内観

 神殿の門扉は終日信徒の声を聞くために閉鎖されることはない。  括達は導護の引き継ぎを終え、夜分の礼拝堂に向かう。  蝋燭の(あか)りに照らされた堂内、警護の僧兵は日中と変わらず諸所に(たたず)み、数人の客が長椅子に掛けて(こうべ)()れる。  括達は祭壇に対面し頭を垂れて指を組んだが、深誓することなくその場を退()いた。  客と同様長椅子に掛け、再度頭を垂れる。  ようやく、何人(なにびと)にも(さえぎ)られずに熟考できる。  本日の言動の乱れは狼波の姿勢が影響しているのだろう。  狼波は自身の存続の為に自身を飾ることをせず、欲求どころか不平不満まで包み隠さず表に出す。  対して自分は、内心や現状や境地、幾多の思惑、相反するものがあったとしても吟味して、最善の言葉を意思として表したい。  寄生されて語った本心は最善の言葉ではない。  しかし最善の言葉は(いつわ)りと感じてしまう。  倫理に(もと)る言葉では断じてないのだが。  天使の介助には利益がないように思えた。  損失ばかりが大きく釣り合わぬと、括達は天使の不満に対して同等の不満を突き付けた。  あれは狼波に天使として多大な期待を懸けていたことが間違いだった。  理想の押し付けが倫理にかなうわけがない、狼波の種の存続の妨げになっていたのだろう。  完全に自分の失態だ。
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