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天使ではなく狼波の介助に切り替えたことで、理想と現実の乖離がなくなった。
狼波の失言は想定範囲内。
そもそも理に叶った不快感を無遠慮に訴えていただけだ。
狼波という人間は天使の仕組みを拒否した。
天使を待てども奇跡は起きぬと、自分も重々承知している。
そして狼波は自分が説いた相互扶助による種の存続を受け入れた。
心が伴わずともどの行為に対して代償を払うべきかを理解し、思惑を突き合わせ上手く事を回している。
──価値観の一致。
同じものを必要とし同じものを排除する、共存することで互いに長く存続できる。
狼波は自分の種の存続に関わりのある人間だったらしい。
狼波は自らの存続のために括達に縋り、返しとして括達の存在意義を高め、導護師としての精神的な満足感を与えた。
天使であるが故に危険に身を置く狼波は、天使としては不十分であるが人としては意義のある存在。
括達は狼波を懸念し、導護師としての判断で天使を保護した。
偽りのない本心と導護師の柵にとらわれた自身の一致。
偽りではないのなら、逃れられぬこの役を迷いなく務める事ができる。
狼波はまだこの世に馴染んでおらず、処世術を今から吸収する段階。
狼波を理解し適宜導くことが、自分の務め。
現状問題があるとすれば、狼波が無情であることだ。
こちらが情をかけたとしても、返ってくるものは天使としての演技か、感情の伴わぬ言葉のみ。
だが、何らかを返そうとするその心の持ち様だけでも既に情ではないか。
好意として受け止めているのなら、感謝の言葉などいらぬと感じた。
相互扶助を求めておいて、これではまるで奉仕ではないか。
……恐らく、何かを施したいと思わされる時点で、既に相手から何かを、存在意義などを、与えられているのだろう。
そうでなければ愚直な自分は、決して動かない。
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