1 欺瞞

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 天使を待っても、皆が思い描く奇跡など起こらない。  天使とは、復魂や覚醒の技を伝承する導護師の血族により神に仕立て上げられた、ただの人間。  復魂は言うなれば蘇生処置、まれではあるが一般的に成功し得る事象。  天使だけが特殊な例ではない。  天使は世を(さいな)む魔物を駆逐すると言われるが、天使より有能な人間はこの世にいくらでもいる。  そもそも魔物と呼ばれるものは人と同様魔力を持った動物で、不作の続く時世に人の領域に多く(まぎ)れ込んで来るだけの話。  人智を超えるなにかがあるわけでもなく、現下の混迷は天使に頼らず人の力でいかようにもできるもの。  それでも信徒は天使を(うやま)い、精進し、成果を天使の功績とする。  好循環ではあるが、その実は導護師の権謀術策。  偽善であるが善ではあると承知して、括達は天使導護の(つと)めを()たしていた。  天使覚醒の折、力量も功績もないが若年でこの任に選定された。  それは礼誓教で高い地位を独占する導護師への不信を集中させるためではないかと、括達は考えている。  披露の儀への伺いが、括達へのみ上がってくる。  誰それが不満を訴えていたと、自分より年配の者が不利益を被るような報告を括達にはできない。  そもそも伺いを立てた者の身分は、先日まで外部で祭司補佐をしていた括達にはわからなかった。 ──それが血族の務めであるなら、自分にのみ与えられた任ならば、喜んで善行として対処する──  括達は再度祭壇に頭を垂れると、虚心になり万丈の間へと向かった。
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