11 連袂

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11 連袂

 詩紅は十八年前、天使復魂の折に導護師に選定された。  それ以前は括達と同じく曽祖父の邸宅に住んでいたと言うが、括達は全く記憶にない。  両親の言葉の端から秩序を乱す自由人と認識し、家に配慮して詮索もしなかった。  導護師となって詩紅と関わるようになり二月(ふたつき)程が経過したが、自宅に招いておきながら夜の露店に連行されることは、想定範囲内だった。  帰路でもあるので仕方がない。  詩紅は狼波の口に合うだろうかと店先で酒を飲み始め、括達は酒は駄目だと(たしな)めながらも異国の美酒佳肴(かこう)を事のついでに確かめる。  狼波に対しては過度な期待が認識を歪めていたが、詩紅に対しては先入観が邪魔をしていた。  確かに秩序を乱す人間ではあるが、私欲のために他人を(おとし)めることはない。  大祭司の許可もあったため随分と生意気な口を利いてきたが、彼女が気分を害していた記憶もない。  正当と判断すれば周囲の意見も取り入れ、反論の際はその理由も明かす。  理論的な部分を疑問に感じたが、自分のほうが余程(よほど)理論を重んじてはいないか。  漠然とした警戒が解け、試飲と称して数軒を巡り、狼波への土産物として買った果実や野菜を大量に抱えてようやく詩紅の居宅へと到着した。  門前街の外れ、碌堂(ろくどう)城下町に位置するその家は詩紅と住み込みの使用人の二人が住めるだけの小振りなものだった。  使用人が整えた食卓に着くと括達は早速(さっそく)、狼波に寄生を(すす)めたのは自分の気付きを(はか)ってのことかと(たず)ねる。 「誰が括達のことまで面倒を見るか」  先程仕入れたばかりの果実酒を呑みながら、詩紅の言葉は素っ気ない。 「貴重な学びがありました、進言していただき感謝しております」  彼女の言葉の真偽は定かではないが感謝の念が強い、頭を下げると詩紅は笑った。 「それは儲けたな。親は子に育てられると言うからそれではないか?」
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