11 連袂

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「だが何の沙汰もない。ついでに天使を歩かせんでも良いと、体動法を日々の教程から外せと具体的に言ってきた。体力もないのに魔の法律ばかり使っては命が擦り減る。導護師に天使を殺める伝聞はないが、祭司のほうにはあるのかも知れん」  歩けなければ外の世界を知る事ができず、魔物の討伐にも出られない。  本人の意思を尊重し無理強いはなかったが、祭司によって密かに誘導されようがどの導護師も狼波に歩行は必須としていたはず。  全て異教徒の()(ごと)からの詩紅の想像。  狼波を早々に潰し新たな天使に()げ替える流れがあるのなら、(あらが)わず大きな流れに任せたほうが狼波のためにも良いのではと、詩紅は力なく笑う。 「すまんな、一人で背負うには荷が重くなってきたのだ。狼波の怯える様を見たら、導護師として天使を守るべきか天使の務めから解放してやるべきか、わからなくなった。括達の意見を聞きたい」  普段勝手ばかりする詩紅だが、この件では無茶ができないのだろう。  天使を殺す伝聞が本当にあるのなら、祭司に真偽を問えば解任を恐れて祭司側の方針に従わなければならない。  本人に生きるか死ぬかを問うことなどできない。  出来る限り狼波の意に沿()うために、“天使”ではなく“狼波”と意思の疎通が成っていると思える自分の思惑を、詩紅は求めているのだろうか。 「天使のためにはどちらが良いか私には(わか)()ねますが、私は狼波が自分の存続に必要であると先刻判断しましたので、自分のためにも狼波を守りますよ」  狼波が死んででもここから抜け出したいなどと言い出したとして、自分はそれを許さない。  利己的だと言われようが譲れないだろう。  その代償にあらゆる配慮をして狼波の存続を守るつもりだ。  現状天使は碌堂国を大々的に支える礼誓教にとって必要不可欠なもの。  天使の任を、導護師の任を、成し遂げる事は無駄ではない。  生きる事は、大いに意味のある事。
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