11 連袂

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 真正直に意見を述べると、詩紅は(けわ)しかった表情を緩ませた。  息を一つ吐き、目を細める。 「感謝する。私も迷わず狼波を守ろう」  感謝するのはこちらのほうだ。  狼波に対して揺るぎない愛情を、自分に対しては信頼を確信できる有力な人物のその宣言は、心強い事この上ない。  難儀はしたが狼波は天使としての地位を確立している。  魔物の討伐も趣向を凝らして誘導すれば恐らく可能、詩紅の導護がなければ無理だとすら思える。 「徳のない天使の導護など誰にでも出来る任務ではないでしょう、私も一度投げ出しました。詩紅様は最も的確に導護していらっしゃる。以後とも宜しくお願い致します」 「いや、あれは括達の講釈のほうが効いておる。先代からの導護師も大層手こずっておるし、武勲を上げやすいのかも知れんな」  再び果実酒をあおる詩紅に、括達は告げた。 「異教徒の言葉、真偽の確かめようがない様子ですが、心に留めておきます」  事実無根の雑言だとしても、自分はその言葉に該当する行為を働いている。  導護師に温度差を感じる内は警戒すべきと、自身を(かえり)みて思う。  長らく一人、現状に妥協しない態度を取りながらも責務を全うし続ける詩紅。  酒の力を借りなければ(さら)け出す決心がつかなかったのであろう彼女の大きな(わずら)いを、少しでも引き受けたかった。 「助かる」  重荷を預けた心苦しさからか、詩紅は神妙に頷いた。
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