12 資質

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12 資質

 翌々日の昼中、括達が導護に入ると狼波は部屋着を身に付け卓に着き、叔父の撞信(ドウシン)と共に読書に(ふけ)っていた。  日録によると昨日狼波は礼拝を執り行う日を定め、当面は外部の人間との接触に向けて体動法と対話法に重点を置く形になったらしい。  歩行を天使の務めを(こな)すためではなく余暇を有意義に過ごす手段として撞信が提案すると、狼波は早速それを受け入れたという。  括達は椅子に掛ける狼波に屈伸を施し、直立を依頼する。  狼波は退屈そうに読書を止めて、不満を言わずに卓に手を着き、危なげではあるが立ち上がった。  介助しながらの歩行練習にも応じてくれる。  犠牲を払う価値があると判断し寄生に応じたが、外出は非常に有益だったようだ。 「狼波。披露の儀から日が経つと露店の規模が縮小してゆくそうです。賑わいのある内に今一度、露店へご一緒しましょう」  狼波を椅子へ戻すと、括達は緊張の(ほぐ)れから深く息を吐いた。  外へと連れ立てる日が来るのだと思うと今までの苦労も報われ、その退屈そうな顔がどのように(ほころ)ぶものかとどうも気が急く。 「外出の際は導護師三名に加えて僧兵が四名付きます。安全ですので、是非」  無視される事にも慣れてしまい返答など期待していなかったが、狼波は紅い瞳をこちらに向けた。 「あのさぁ括達、怒ってる?」  身に覚えのない問い掛けに、括達は(わず)かに焦った。  折角(せっかく)歩き始めたというのに、歩行を不快と思われては(かな)わない。
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