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「何をですか。私は注意などしておりませんが」
「怒ってると思ったんだけど」
心当たりを探っていると、撞信が軽い調子で口添えしてきた。
「天使。括達様はお怒りなのではなく多分疲れているのですよ。昨日魔物討伐に行かれましたからね、相当お疲れで不機嫌に見えるのでしょう」
短髪で気さくな容貌をした叔父は、魔司である上に医師と祭司の資格まで持つ逸材、視野が広く洞察力が優れているようだ。
「昨日遠方まで討伐に出て、疲れが取れていない事は確かです。ご心配をお掛けして申し訳ありません」
天使の魔物討伐への追従に向けて、剣術や武術、魔の法律に覚えのある導護師は導護と並行して王立軍に派遣される。
導護師は総合的な能力が求められ一点に絞ることはよしとされず、剣術を極める事が難しい。
不足した討伐能力を補うために最前線に出て自らに負担を強いてきたが、狼波に疲労を見透かされるとは不覚だった。
「怒ってんなら謝っとこうと思っただけだぞ」
狼波らしい反応、しかし撞信はそれを聞き咎め、笑顔で進言する。
「天使、ここは『ご無理をされぬよう、お大事になさって下さい』と言いましょうか。異変に気付き問いかけるまでは素晴らしい、後は慈悲深い言葉が続けば完璧です」
「あのさあ。言葉を選択すれば相手が気分害さないとか聞いたけど、撞信のその喋り、俺は逆に苛々する」
狼波の無表情の反論に、撞信が笑顔のまま口元を引き攣らせ、目を細めた。
狼波は性質に難があるが、今まで特定の人間を批難することなどあっただろうか。
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