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以前は『いやだ』の一言で済ませていた否定が、会話への慣れか人慣れか、不穏な方向に成長してはいまいか。
「それは、なぜでしょう」
括達は天使に問う撞信を窺う。
天使に対し不信を抱いていただろうかと過去を振り返るが、常時陽気な叔父の内心はわからなかった。
「導護師で医者なの撞信だけなんだろ。歩行は可能、見立て違いはない、とっとと歩けと俺に対して腹を立ててる。違うか?」
撞信は医者として導護に入る回数が多く、祭司に説明を乞われ呼び出されることが多々あった。
それに対する愚痴も本人からよく聞く。
医者に天使の保護を打ち切られる事は避けたい、狼波に失言があれば取り繕わねばと、括達は警戒しながら静観した。
「ご名答です。しかし先程は括達様の内心を見誤りましたね。内心を読んだわけではなさそうですが」
「わかんなかったから聞いたんだろ。けど無理してねーようだし、大事にすることもなさそうだし、労う必要あるか?」
狼波は冷たい声と視線で更に楯突く。
「常套句ですよ。格好が付きますし、天使に賜ったとなれば人は皆喜びます」
狼波の言い分も理解できるが、穏便に対話する上で常套句は必要なものだ。
格好を付ける気も他人を喜ばせる気もないであろう狼波に配慮に徹した対話をさせるには、やはり物で釣る以外ないのか。
ひたすら反発するだけに思えた狼波は、そこで撞信に向かって皮肉げに笑った。
「常套句。詩紅と同じだろ、手っ取り早く事を進めるために俺に慈悲深さを求めてない。俺はそのほうがやりやすいが、必要ない言葉で格好付けられても鬱陶しいんだよ。飾らず喋れば撞信の言う事、聞けると思うけど?」
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