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「せめて様をお付け下さい」
ここでの会話や立ち居振る舞いは全て天使への指導の一環、そう言った本人が常日頃から見本にならぬ言動をする。
とにかく呼称だけでも修正してもらわねばならない。
詩紅は天使に視線を向けた。
「天使は眠りの中で誓いの声を聞き、言語は理解しているらしいな。しかし対人で学んだものではないから愚劣な上下関係を理解してない。敬称の使い所なんて知らんだろう。面白い」
「それを理解していただくのが我々の仕事です」
「あのなぁ。十日間色々と伝えたが、狼波は聞く耳を持っておらんのだぞ。手引きも伝聞も参考にならん。今後は試行錯誤だ。手当たり次第なんでもやって、反応のあるなしに関わらず全て報告しろ」
納得のできる言い分だが、目覚めたばかりの天使に対して無茶をしてよいものか。
「そのような、研究じみたことはできません」
「急ぎの仕事だ、仕方ない。従来のこちらの教程にはしたがわん。不満があるなら改善したいが、不満について見当がつかん。寄生して歩行発声だけでも意思を無視してするべきだと提案したら、祭司どもから猛反対を食らったからな」
無謀に思えたが、詩紅は一応段取りを踏んでいるらしい。
しかし最後の提案は初耳だ。
「寄生とは、魔の法律ですか」
魔の法律は括達にはまったく理解できない超自然的な技巧だった。
天使はその技巧を導護師から伝習し魔物を駆逐するという段取りだが、その段階まで遅々として進まない。
「そうだ。身体を乗っ取る。狼波にやる気がなかろうが私の意思で動作させる。体動法も言葉も意思に反して身につくはず。良策なんだがな」
魔の法律の伝習がどのようにしてなされるものかわからない。
しかし早々にその技巧を目の前で披露し、並行して体動法と会話を習得できるのなら好都合ではないか。
「なぜそれが採用されないのでしょうか」
「禁呪なのだ。意思を同居させるから心の中が垣間見える。相手が不快を覚えて訴えてきたら投獄だぞ」
禁止されていることを天使に対して施そうとしたというのか。
ことが進まないからといって彼女の策に乗ることはやはり危険なようだ。
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