2 天使

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 詩紅の言葉に、括達は驚き入りながらも天使の枕元に駆け寄った。  訓練ではなくみずからの意思で動作しようと、この天使がするものなのか。 「怪我をさせんよう、しっかりと介助してやれ」  言われずともそうする、寝台の横に天使の脚を下ろし、(わき)から(かつ)ぐように支えて寝台から立ち上がる。  ほぼ接地させぬままゆっくりと卓まで運ぶ。  天使の吐息がたったこれだけのことで荒くなる。  声音にも聞こえるそれは低い男性の響きだ。  忘れていたが、天使は自分とさほど歳の離れぬ人だった。  鴻雨の用意した椅子に手を借りて天使を降ろし、卓に着かせる。  天使は無表情で卓に並ぶ書物を物色する。  なぜ急にこのような運びになったのか、呆然とする括達に詩紅は得意げに言った。 「ほら見ろ、試行錯誤が近道だ。敬意を払っても狼波は動かん。遊びの中から学べばよい、狼波は子供だ」  確かに、覚醒したばかりで天使は赤子同然。  しかし言語は理解していて、書物を取りに行くという選択をした。  天使を子供として扱うことは疑問であるが、試行錯誤が必要であるという考えは間違いではないかも知れない。  正しいことか間違いなのか、喜ぶべきか(いさ)めるべきか、わからない。  括達は無言で書物を眺める天使を見下ろしていた。
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