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詩紅の言葉に、括達は驚き入りながらも天使の枕元に駆け寄った。
訓練ではなくみずからの意思で動作しようと、この天使がするものなのか。
「怪我をさせんよう、しっかりと介助してやれ」
言われずともそうする、寝台の横に天使の脚を下ろし、腋から担ぐように支えて寝台から立ち上がる。
ほぼ接地させぬままゆっくりと卓まで運ぶ。
天使の吐息がたったこれだけのことで荒くなる。
声音にも聞こえるそれは低い男性の響きだ。
忘れていたが、天使は自分とさほど歳の離れぬ人だった。
鴻雨の用意した椅子に手を借りて天使を降ろし、卓に着かせる。
天使は無表情で卓に並ぶ書物を物色する。
なぜ急にこのような運びになったのか、呆然とする括達に詩紅は得意げに言った。
「ほら見ろ、試行錯誤が近道だ。敬意を払っても狼波は動かん。遊びの中から学べばよい、狼波は子供だ」
確かに、覚醒したばかりで天使は赤子同然。
しかし言語は理解していて、書物を取りに行くという選択をした。
天使を子供として扱うことは疑問であるが、試行錯誤が必要であるという考えは間違いではないかも知れない。
正しいことか間違いなのか、喜ぶべきか諫めるべきか、わからない。
括達は無言で書物を眺める天使を見下ろしていた。
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