3 感受

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 会話や体動法の訓練をほぼ無視してきた天使が、試行錯誤という方針を立ててから意思の表示をするようになった。  特に画の(えが)かれた書物を好んで、いつまでも飽きずに眺める。  弦楽器や管楽器を持ち込み奏でれば、手を伸ばし楽器に触れて音を確かめる。 『言葉』ではなく『物』には大抵反応を(しめ)すため、試行錯誤に一旦は躊躇した他の導護師もさまざまな物を持ち込むようになった。  それでもまだ、従来の教程から非常に遅れをとっている。  括達はできるだけ披露の儀に関連のあることをと考えた。  天使のために用意された法衣を十着ほどを寝台に並べ、衣類をまとわぬ天使に(たず)ねる。 「ここではもう仕方ない、そのままで構いません。ですが儀式の際は法衣を着ていただきます。どの法衣がお好みですか」  視覚に訴え、言葉かしぐさで選択をさせる。  天使を動かす自信があったのだが、彼は興味深く眺めるだけで動かなかった。  そこへ共に法衣を並べていた導護師が、天使に優しく声をかける。 「こんなにあるのでは迷いますよね。色はどれがお好みでしょう? 赤い、これとか、これですね、天使にお似合いだと思いますよ」  詩紅同様魔の法律を理解した『魔司』の柳綺(リュウキ)は、小柄(こがら)で純白の法衣の似合う温厚な女性。  子を二人もうけているためか、天使に対する声掛けが手慣れているように思う。
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