霖、止まず

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神戸の戦友の家に着いたのは 夜も随分遅かった。 「何にもないですけど  食べてくださいね」 快く迎えてくれた細君に 「こんにちはァ」 戦友・将吉に瓜二つの男の子。 「お前、結婚してるなんて  言ってなかったじゃないか?」 「一番俺がビックリしてるわ。  帰ってきたら、いきなり  子持ちになっとった、ハハハハ」 関西人らしい軽妙な彼の語り口は 仕事も上手くいっている様子を うかがわせる・・・。 僕達は何度も何度も 命を落とす危機から免れ 終戦から一年以上経って ようやく故国へたどり着いた。 将吉は関西生まれ、 僕は東京生まれ、 互いの戦後だけを夢見て やっとの思いで帰ったのだ。 膝に子供を抱いて話す将吉・・・ 「いい帰国になったな・・・」 「ありがとう。ああ・・・  帰ってきて・・・  ・・・よかった・・・」 将吉は僕に遠慮して語尾を あやふやにしてから 「訪ね先の場所はここにある」 眼を逸らせながら 一枚の紙を渡してくれた。 両手で受け取って 僕は頭を下げた・・・。 「お寺には話はつけてある。  ウチの嫁と、嫁のオカンが  一緒にいくけど。」 「手間をとらせて申し訳ない」 「明後日なら俺も行けるんやけど」 「いや・・・」 「せやろ?早く行ってやりたいやろ」 自分の代りに時計が ボーンと頷いた・・・。    
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