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「その廓(遊郭)の若ぼん(息子) は
無口な学者さんで・・・
幼いときから家業を嫌うて
おられてましてなあ。
かというて、その稼ぎで自分も
食べて学校もいけた・・・
なんやら矛盾に暮らして
おいでやったんですが、終戦、
両親が相次いで病死されたとこで
やっと見切りがつけられて
廓を閉じることになって
帰れる者は皆、故郷へ帰して
やったんですわ・・・
ほんでも一人、響子さんだけは
もう瀕死の状態で・・・
檀家であるあるワシのトコへ
御両親と一緒に供養となりました。
廓から手紙が来ては家族も
お辛かろうと、ワシから御家族に
手紙を出して貰えんものかと
お願いされまして、御連絡を。
ところが手紙はついているはず
やのに、ナシノツブテ・・・
まあ、廓へ娘を売らんならん
事情からやむを得んとも・・・」
「迷惑をお掛けしました」
「いやいや、そんなことは。
連絡ないならないでここで
永代供養と、若ぼんはお考え
やったんですが・・・」
「先月、将吉さんが手紙を
持ってきてなあ、『このお寺は
どの辺りやろか』てなあ、
それでウチのお寺さんから
こちらへ連絡をいれさせて
いただいたんですわ」
「女将さんにも御足労を
お掛けしました」
「たいしたことや、ないです。
お役に立てて嬉しいです、
なあ、晶子」
「はい、同じ女ですもん。
一番迎えにきてほしい人に
迎えにきてほしいもの。
私もお役に立ててよかった」
「身元・死亡の証明書やらは
ここに・・・」
書面を拡げて隣に
住職は風呂敷包みを置いた。
「あらためていただけますか?」
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