霖、止まず

6/10
前へ
/10ページ
次へ
  風呂敷の結びを解くと・・・  わずかな着替え  ノート一冊  懐中時計 ノートには恨みがましい言葉などなく 何頁も紫蘭の鉛筆画が・・・。 「馴れん廓で食も細うなってた  とこへ、客から悪い風邪を  うつされて・・・  みるみる痩せて・・・」 ギシギシと胸の骨まで軋む・・・。   「寝かされてた部屋の小窓の下、  日蔭に紫蘭が咲いておったそうで  体の具合がエエ日には鉛筆で  描いておられるのが見えたと  若ぼんが言うておられました」 か細くも蕾から花開いて ・・・枯れゆくまでを数頁、 そして 「これ・・・」 晶子さんが震える声で 眼を逸らしたのは 僕の似顔絵、 何頁も何十頁も・・・。    
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加