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「あの日はね、私すっごい覚えてるの。土砂降りで、健二が家の前でびちゃびちゃに濡れてて」
そう、今の状況とは全く逆の立場だった。
当たって砕けろの精神だったから、当時の俺は何も考えていなかった。
「それがどうしたよ。」
「だからね、言うならこういう日って決めてたの。」
少し由美の声が震えた。
これはきっと寒さのせいでふるえてるわけでないことはすぐにわかった。
「健二、私達、別れよ。」
雨に打たれている彼女は笑っていた。
「なんで、なんでだよ」
「健二は私なんかにはもったいない。もっといい人がいる。」
「そんなことねえよ、俺にはお前しか」
「だめ。私じゃだめなの。」
彼女に打ち付ける雨が強くなった。
きっと彼女は泣いていた。それを隠すためにわざわざ雨に打たれていたのだと今更気付く。
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