癒えぬ傷口、やまない雨

1/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

癒えぬ傷口、やまない雨

すぐに止むと、その時は思い、特に気にもせず放置していたーーーーー 私の内で雨が降っている。 最初はお天気雨のような小雨だった。すぐに止むとばかり思い、何もしなかった。 私の内で雨が降っている。 まだ小雨が続いている。 僅かな痛みだ。次第に良くなるだろう。 傷をおった。 ふとした瞬間だった。友達との会話途中だ。 傷つけてしまった。 僅かな痛みが新たな痛みを招いた。 やってしまったーー じんじんと静かに痛んだ。 でも、この時はまだすぐに治ると信じていた。 私の内で雨が降っている。 傘をさすぐらいの雨が降っている。 数日の時が経った。 次第に痛みが和らいでいた。 雷は突然に落ちた。 雷に射たれたような衝撃を私は忘れない。 傷口が、どろどろと膿を出すかのように溢れてくる。 咄嗟に傷口を私は庇う。しかし、気休めにもならない。暫くは口も聞けなかった…。 それは家族との食事中の出来事。 私の内で雨が降っている。 土砂降りの雨だ。傘をさしても意味がないほどにびしょ濡れだ。 ここにきて漸く私は思った。 この雨は止むんだよね?と…。 日は経たず、それはすぐ翌日のこと。 傷口は良くなるどころか、悪化の一途を辿っていた。 毒々しい赤色に腫れ、回りを更にどす黒い赤色で囲み、真ん中はその赤を目立たせるかのように真っ白だった。赤色よりも抉れた白いクレーターが不気味で直視を拒みたい。 私の傷口。とても痛い。誰か助けて。治して。癒して。 願うばかりしかできない。 でも私に待ち受けていた未来はただただ残酷でしかなかった。 会社の飲み会だった。大勢の。 正直、気分も乗らないし、帰りたかった。でも断れなかった。 私は、傷口を庇うために必死だった。新たな傷を生まないように必死に頑張った。だが、何の意味も無い…。 昨日同様の落雷が私の身体を貫いた。鋭利で冷ややかな剣とは裏腹に、私の傷は生温かい熱を持って内に滴っていく。 平然を装おうと何とか気づかれないように、なるべく自然に口元を手の平で覆った。 しかし間を置かずして二発目の落雷が落ち、そしてもう一発。総攻撃にあってしまった。 私は耐えられずにその場をあとにし、トイレに駆け込んだ。目には涙が今、大粒の滴となって零れた。 よく我慢した、でも、もうむりーー 心の叫びが口から漏れた。 全て同じ場所におった傷。 当たり前だった。だって最初におったその時から罠は仕掛けられていた。 一度おった小さな傷。気づかないくらいの僅かな腫れは次の傷を大きく育てるための伏線。私は僅かに腫れた傷に足をとられ躓き、その傷は育ち、また躓き、そして徐々に、時に大胆に、傷口を抉っていたのだ。 もう立ち直れない。 終わらない。遠退いていく私の青空。 これは、永遠なのだろうか。考えるだけでゾッとした。 私は永遠のループに囚われてしまった。 その名は地獄。とでも言いたかったーーー 私の内で雨が降っている。 小雨だったそれは嵐になり、今も衰えず私の内で渦巻いている。 癒えぬ傷。終わらない、やまない雨。 終わる気配を見せず私を苦しめるその名前はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!