暗がり列車

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 静寂から一転、人のものとは思えぬ絶叫が列車内に鳴り響いた。  複数人の声が混じりあったようなその叫びは、久藤の全身を振るわせるには十分であった。ごくり、と喉を鳴る。額からは、冷え切った汗が流れ落ちていた。  尋常ではない、明らかな異常が起こっている事を、ここで彼は理解する。 (不味い...雰囲気に)  久藤は両手で頬を「パンッ」と軽く叩き、(まぶた)を固く閉じて深呼吸を始めた。これは彼がパニックに陥りそうになった時に行うルーティンだ。かつて北海道の雄大な自然の中で野生の熊に追われた時も、紛争地帯でゲリラに襲われた時も、彼はこうして精神を落ち着かせ危機を脱してきた。  そして今回も、だ。
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