暗がり列車

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 久藤は、自らの拳で背後の出入り口を殴った。「何故そんな事を?」と問われても、彼自身その行動を説明する言葉を持ち合わせてはいないだろう。  何故なら、それは理屈のない衝動だからだ。あまりに現実離れした出来事に遭遇した彼は、その理不尽な恐怖に対する怒りを(あらわ)にした。これは、彼が意図して引き出した感情ではない。彼の精神が崩壊を防ぐために起こした自己防衛本能。則ち怒ることで恐怖を発散させ、精神的ストレスを軽減させたのだ。 「糞が...。あれが何なのかはしらんが、分かったことはあるぞ」  自身の暴力行為により少しの冷静さを取り戻した彼は、に気が付いていた。  あの赤い手の出現したタイミング、消えたタイミングに気になる点があったのだ。だが、それはまだ仮説の段階。その検証を行うため、久藤は暗闇の中、床に叩きつけられ沈黙しているスマホを手探りで見つけ出した。
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