暗がり列車

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「収穫はあったんだから、少しは融通効かせてほしいよなぁ~」  ギリギリ一部屋だけ空いていた個室を取った久藤は、重たい荷物を床に降ろして「よっこらせ」と簡素なベッドに腰を下ろした。思いの他弾力のあるベッドは、(やわ)く沈んで彼の体重を支える。 (うん、悪くない。今夜はよく眠れそうだ。)  そのまま厚手の上着を脱ぎ、胸の内ポケットから黒い皮のカバーがかけられた一冊の手帳を取り出す。それは彼が常に肌身話さず持ち歩き、命の次に大切にしている取材用のノートであった。おもむろに中を開くと、本来白紙であったページには小さな文字や簡単な絵図が隙間なく敷き詰められていた。 (今回の取材は......色々と災難だったな)  白地が黒で埋め尽くされたページを見返しながら、久藤は物思いにふける。
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