暗がり列車

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(人がいるぞ!! 声をかけるか? ...いや、異形のものである可能性もある。ここは灯りを消して近づき、背後を取る)  ゆっくり、ゆっくり。極限まで音を立てず。久藤の身のこなしは、熟練の忍びのように軽やかであり正確であった。余程聴力に自信のあるものでなければ、彼の接近には気付けないであろう。その証拠に、操縦席に座るものは先程からピクリとも動いていない。暗闇の中ではあるが、その人影が制服を着ている事は見て取れた。 (よし...。相手の背後に回った。意識がないのか全然動かないが、念のため羽交い絞めして先手をとっておこう)  久藤には、護身術の心得があった。頬に傷を付けられたあの日から、その経験を(いまし)めとし、自ら危険を回避する術を学んでいたのだ。彼はその人影の首元に素早く右腕を回し、左腕とクロスさせて力強く締め付ける。  しかし、彼の腕には肉を締めた時の感触が感じられなかった。  手応えがない。いや、あまりにもなさすぎる。 (何だ!!? こいつ、首が......無い!!!)
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