暗がり列車

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 久藤は車掌室の壁に背中を預け、うなだれていた。次から次へ、手を変え品を変え、心休まる間もなく襲いかかってくる狂気。人智を超えた恐怖の権化。しかも、その一つは現在進行形でこちらへと向かってきている。ゆっくりと、だが確実に。ぴちゃぴちゃと、粘ついた音を立てながら。 (........................................................................)  彼は後悔していた。せめて、と。今回の取材に後輩の大門(だいもん)大輔を連れてきていれば。あのいつでもお気楽で騒がしい後輩がこの場にいれば。ここまで精神的に追いやられる事もなかっただろう、と。 (...............あいつは................やかましいやつだ。.............しかし................いまとなっては.............それが............こいしい)  だが、現実は非情である。今この場にいるのは、物言わぬ白骨死体のみ。久藤は、操縦席に座ったまま果てている車掌の亡骸(なきがら)をぼんやりと見つめる。 (..............かれは.............どうしてああなったんだ..............?)  久藤の頭には、疑問が浮かんでいた。目の前の亡骸には、何かと争ったような形跡も、抵抗したような跡も無いように見えた。今でこそ、自分が羽交い絞めにしたせいで少し乱れてはいるが、最初は生きた人間だと勘違いした程だ。まるで、列車を運転している途中にようだ、と久藤は考えていた。 「..............................................おれも、こうなるのか?」
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