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久藤は記者になってから、自分がいつ取材先で不慮の事故・事件に巻き込まれて命を落としてもおかしくはないと思っていた。現に彼の自宅にある作業机の引き出しには、常に直筆の遺書が保管されている。予想はしていた。覚悟はあった。準備もしていた。
だがこんな、こんな訳の分からない怪奇現象に巻き込まれることは、流石に想像していなかった。きっと、運転席に座る彼もそうだったのだろう。こんな所で、誰にも看取られることなく、独りで死んでいった彼は、何を思っただろう。
久藤には物言わぬ骸となった彼の気持ちが、痛いほど理解出来た。
「................................................俺はまだ、死ねない」
だからこそ、久藤はここでは死ねないと強く、強く思った。腹の奥にぐっと力を込めて、もう一度立ち上がる。
「俺は、記事を書くぞ。生きて帰って、ここであったことを記事に書く。あなたの事を、名も知らぬ骨にはさせない」
己を奮い立たせた久藤はこの怪奇現象から脱出するため、探索を再開した。しかし、彼は気付いていない。自分がこの車掌室に来てから、既に30分以上が経過している事に。
ぴちゃ...。ぴちゃ...。
かろうじて人の形を成し、ぐねぐねと蠢く異形の怪物はゆっくりと、だが確実に久藤のいる1両目に近づいていた...。
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