暗がり列車

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 ボードの文字は擦り切れ、それ以上読み取ることは出来なかった。だが、久藤はボードにかじりつきその文字を何度も読み返す。その行為は、一見無意味なように思えた。だが、久藤にとっては確かな意味のあるものだった。彼の手には、2両目で拾った日誌があった。 「......やはり。このボードの文字は、さっき拾った手帳の文字と筆跡が一致する」  久藤が確かめたかったのは、ボードの最後に綴られた事の顛末では無く、遺体となった彼がここに行き着いた経緯だった。 (この日記とボードを合わせて読むと......この列車の車掌である彼は、同僚と日常点検をしている途中にあの化物と遭遇した。化物から逃げるように1両目に移動した彼は、俺が今見ているのと同じ門を見た。彼は列車を前方に進ませ、そして......) 「死んだ」  久藤は開いていた日記をパタンと閉じると、おもむろに白骨死体の着ている制服のポケットをまさぐった。指に引っかかる感触がある。ポケットから引き抜かれた久藤の手には、麻の紐で括られた2つの鍵があった。 「鍵...か。これが文字通り、この窮地を脱するになってくれるのか?」  
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