暗がり列車

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 それは、僅かな変化であった。  だが、確かな変化であった。  他の感覚器官が塞がれ鋭敏になった久藤の耳は、その微妙な差を明確に感じ取った。 (...。化物の足音? が...離れていってるぞ!)  ゆっくりと、亀の動作より遅い動きで久藤は毛布を(めく)り、音のする方へ視線を向ける。化物は、久藤を横切り1両目のさらに前へと向かっていた。彼の目には、その後ろ姿がと見えた。 (何とか...には、勝ったようだな)  化物の向かう先には、白く輝く光を放つ物体があった。  だ。  久藤は今までライト代わりに使用していたスマホを1両目の先頭に置き、化物の目をそちらに集中させたのだった。これこそが、久藤の賭け。この場を切り抜ける為に、最善を尽くした結果だった。
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