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「今更自分の顔なんか見てもしょうがないか」
久藤は自身の顔から、外の風景に目線を移す。田舎だけあって人工的な灯りは殆どなく、雄大な山々と田園、空を埋め尽くす星空が煌めく大自然の景色は、そのまま「寝台列車の夜」という名画として成立していた。
(ま、偶にはこういうのも悪くねぇな)
美しい情景に見惚れていた久藤であったが、それも束の間。
ガタンガタン...ガタンガタン...ズアッ!!
突如として、煌びやかな名画は漆黒に染まった。だが何の事はない。寝台列車は平地を抜けトンネルに突入したのであった。せっかくの景色をもう少し味わいたかった久藤は興が削がれたのか、のそりと窓から目を離してうたた寝を始めた。
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