93人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
***
今日も雨が降っている。初日以降、雨はやまない。その気配すらない。この雨はいったいいつまで続くんだろうか。
シトシトと降り続く雨模様を眺めながら、私は一つ溜息をついた。
雨が続いているのは、転校生の頭の上だ。初日からずっと降り続いている。
季節外れの転校だから、不安なのだと思った。もうすっかり輪ができてしまっている中に入るのは、いつだって緊張するし、不安なものだ。そう思っていたのだけど……。
彼は、クラスの女子の期待を遥かに超えたイケメン君だった。彼を見た途端、女子たちの頭の上は、まるでハワイのような陽気になった。辺りにヒラヒラとハイビスカスの花びらが舞う勢いだ。
それとは反比例するように、男子の頭の上は、どんよりとした曇り空になる。その対比がおかしくて、私は笑いそうになるのをずっと堪えたものだった。
転校生の彼は、イケメンな上に性格もよかった。コミュニケーション能力も高い。あっという間にクラスに溶け込み、すでに男子とも打ち解けている。いつも笑顔で、今やクラスの中心人物にさえなっていた。それなのに──。
表情とはまるで逆。彼の頭の上にはいつも黒い雲が覆い、悲しげな雨が降っている。ずっと、ずっとだ。
「一華ちゃん」
「え、なに?」
咲奈に声をかけられ、ハッとする。咲奈は珍しく唇を尖らせ、怒ったような顔をした。私は慌てて謝る。
「ごめん! どうしたの?」
「そんなの、こっちが聞きたい」
「え?」
私が訝しげな顔をすると、咲奈は「自分でわかってないんだ」と言う。
わかってないって、何を?
私の顔を見て、咲奈はわざとらしく溜息をつき、耳打ちしてきた。
「山下君が気になるの?」
「!?」
ビクッとした瞬間、椅子がガタンと大きな音を立てる。でも、今はお昼休みで誰もそんなことは気にしない。私は胸に手を当てながら、大きく息を吐きだした。
「へ、変なこと言わないでよ」
「変なことじゃないよ。だって一華ちゃん、気付くと山下君のことを見てるんだもん。そのくせ、話しかけたりはしないし。まぁ、いつも女の子に囲まれてるから近づけないけどさ」
山下君とは、例の転校生のことだ。転校生の……土砂降り男。顔は笑っているのに、頭上にはずっと雨が降っている。
「別にどーでもいい」
「そお?」
「うん」
咲奈から顔を背け、窓から見えるグラウンドに目を遣った。今日の天気は快晴。なのに、彼の頭上の雨はやまない。
見た目と気持ちにこれほどギャップのある生徒はこの中にはいない。
他の子たちは大抵、表情と頭上の天気は合っているのだ。多少のギャップはあれど、彼ほどじゃない。だから──気になる。
でも、私が気にしたところでどうにもならない。私が彼の雨をやませることなんて、できはしないのだから。
最初のコメントを投稿しよう!