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「久住さん」
鞄を手にした矢先に呼び止められた。
私たち以外、誰もいない教室。私は日直の仕事を済ませ、帰る準備を終えたところだった。
「え、あ……山下君」
誰かが教室に入ってきたなんて、全然気付かなかった。私が戸惑っていると、彼は小さく笑って「ちょっといいかな?」と聞いてきた。ここでダメとも言えない。私は仕方なくコクンと頷いた。
「……何かな?」
おずおずしながら尋ねると、彼の笑みが僅かに崩れる。
「久住さんって……僕のこと、いつも見てない?」
私は目を丸くした。
気付かれていた!? まぁ、咲奈が気付くくらいだから、本人に気付かれていてもおかしくはないかもしれないけど、でも、自分では気を付けていたつもりだからショックだ。ということは、他の子も気付いてるんだろうか? ひょっとして、咲奈のように誤解をしている子もいる!?
「やっぱりそうなんだ。なんか、チラチラと視線を感じてたから」
「……ごめんなさい」
とりあえず謝っておこう。ジロジロ見られるなんて、気持ち悪いだろうし。
あー……この訳のわからない能力、どうにかならないだろうか。だって、山下君を気にしてしまうのはこれのせいなのだから。急に出てきたのだから、急になくなったりはしないのかな。なくて困る能力じゃないから、できれば消えてほしいんだけど。
そんなことをぐるぐると考えていると、すぐ側で声がした。
「何か僕に言いたいことがあるの?」
いきなり飛び込んできた声に、ザッと後ずさる。ビックリした。まさか、こんなに近づかれているとは思わない。
山下君は私を窓際へ追い詰めるほどに距離を詰めていたのだ。
「な、な、ない! ないからっ」
「でも、いつも何か言いたそうだ」
「いや、ないから」
「でも……」
「だからごめんって!! じゃ、じゃあ私はこれでっ……」
このまま逃げてしまおうと思い、鞄を抱えて走り出そうとすると。
ガシッ。
腕を捕らえられ、逃げられない。
「……は、離してもらえるかな?」
「久住さんが、僕に言いたいことを言ってくれたら」
「いや、だからね……」
「気になるんだよ」
山下君の声が低くなる。明らかに不機嫌な雰囲気を感じ、驚いた。
おそるおそる山下君の顔を見てみると、眉間に皺が寄っている。あぁ、明らかに機嫌が悪い。というか、怒っている。
山下君に何か言いたかったわけじゃない。でも山下君からしてみれば、私の態度は何か言いたいのに言えないという風に見えて、ウザかったろう。
私は顔を俯ける。そして、ゆっくりと顔を上げた。
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