今日は雨、明日はきっと。

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 *** 「久住(くずみ)さん」  鞄を手にした矢先に呼び止められた。  私たち以外、誰もいない教室。私は日直の仕事を済ませ、帰る準備を終えたところだった。 「え、あ……山下君」  誰かが教室に入ってきたなんて、全然気付かなかった。私が戸惑っていると、彼は小さく笑って「ちょっといいかな?」と聞いてきた。ここでダメとも言えない。私は仕方なくコクンと頷いた。 「……何かな?」  おずおずしながら尋ねると、彼の笑みが僅かに崩れる。 「久住さんって……僕のこと、いつも見てない?」  私は目を丸くした。  気付かれていた!? まぁ、咲奈が気付くくらいだから、本人に気付かれていてもおかしくはないかもしれないけど、でも、自分では気を付けていたつもりだからショックだ。ということは、他の子も気付いてるんだろうか? ひょっとして、咲奈のように誤解をしている子もいる!? 「やっぱりそうなんだ。なんか、チラチラと視線を感じてたから」 「……ごめんなさい」  とりあえず謝っておこう。ジロジロ見られるなんて、気持ち悪いだろうし。  あー……この訳のわからない能力、どうにかならないだろうか。だって、山下君を気にしてしまうのはこれのせいなのだから。急に出てきたのだから、急になくなったりはしないのかな。なくて困る能力じゃないから、できれば消えてほしいんだけど。  そんなことをぐるぐると考えていると、すぐ側で声がした。 「何か僕に言いたいことがあるの?」  いきなり飛び込んできた声に、ザッと後ずさる。ビックリした。まさか、こんなに近づかれているとは思わない。  山下君は私を窓際へ追い詰めるほどに距離を詰めていたのだ。 「な、な、ない! ないからっ」 「でも、いつも何か言いたそうだ」 「いや、ないから」 「でも……」 「だからごめんって!! じゃ、じゃあ私はこれでっ……」  このまま逃げてしまおうと思い、鞄を抱えて走り出そうとすると。  ガシッ。  腕を捕らえられ、逃げられない。 「……は、離してもらえるかな?」 「久住さんが、僕に言いたいことを言ってくれたら」 「いや、だからね……」 「気になるんだよ」  山下君の声が低くなる。明らかに不機嫌な雰囲気を感じ、驚いた。  おそるおそる山下君の顔を見てみると、眉間に皺が寄っている。あぁ、明らかに機嫌が悪い。というか、怒っている。  山下君に何か言いたかったわけじゃない。でも山下君からしてみれば、私の態度は何か言いたいのに言えないという風に見えて、ウザかったろう。  私は顔を俯ける。そして、ゆっくりと顔を上げた。
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