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「──そんな夢を見たんだ」
私の言葉に、妻は気だるげに返事をしてあくびをする。
「不思議な夢ねぇ」
「でも、ただの夢には思えないんだよ」
「そうかしら? そんなことないわ。だって、カフェって人間が行くものじゃない」
妻は毛繕いをしながら、鈴音みたいな声を響かせた。
今、私達の姿は猫だった。念願の猫になったというのに、妻はちっとも嬉しそうな顔をしていない。
「私、人間って嫌いなの。最初は可愛がってくれても、すぐ私達のこと捨てるじゃない?」
妻はつまらなそうな顔をする。妻は昔人間に捨てられたらしい。どうしてだったか、私はそれを覚えている気がする。
「でも、そんな人間だけじゃないだろ」
「ほら、正論。そんな正論いりませーん」
苦いセリフを挟む私に妻は尻尾を揺らして抗議した。今日の妻は少し不貞腐れている。それが懐かしい気もするし、知らないことの気もする。
違和感。また、何か思い出したような気がした。私は、何かしたいことがあった気がする。何か、叶えたいことがあった気がする。何だろう。思いながら、あくびをする。
気まぐれに、妻が私に寄り添ってくる。
そんな私達を、呼ぶものがあった。その音の響きは、人間のものだ。人間はいつも、妻と私をそれぞれ同じ違う音で呼ぶ。
音の方を振り返ると、人間がその手に魚を掲げて私達を呼んでいた。
「魚だ」
私が言うと、妻もそちらを向いて嬉しそうな声を出す。
人間が嫌いだと言ったのは何処に言ったものか、妻は上機嫌に人間についていき、私のことも「早く早く」と振り返って急かす。仕方がないので、私も早足でついていく。
妻と共にご馳走にありついた途端、視界が暗くなる。
目を覚ますと私達は狭い袋の中にいた。
同じ袋に詰め込まれて、密着した妻の身体が震えている。状況を正しく理解して、私の身体も知らず知らずの内に震えだした。
やがて袋が開けられると、そこには複数の人間がそびえ立つように立っていた。袋の中から、人間達は妻を引っ張り出すと、ナイフを向ける。
妻が何か言いたげに私の方に目を向けた。妻を助けようと私は必死に鳴き声を上げるが、人間達はチラリともこちらを見ない。赤い液体が、こちらまで飛んできた。
近くに置かれた鍋の中で、グツグツと水が沸騰していた。人間たちは、妻を食べるつもりらしい。鳴き続けていると、人間たちはようやく妻から目を離して、こちらを標的に移す。
妻はもう虫の息だった。妻の目から光が消えるのを、私は見る。
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