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「──ずっと、夢を見ている気がするんだよ」 「それ、今言うこと?」  私の言葉に、妻は少し微笑んだ。でも、その笑みもすぐに消えてしまう。珍しく、妻は泣いていた。  遠くで、爆発音が鳴る。鳴り止まない銃声がここまで聞こえていた。  それを聞いた妻が前方に手をかざすとコマンドが表示される。私達はゲームに出てくるキャラクターなのだ。 「でも、どうしてかずっと悪夢なんだ。いつも君が死んでしまう」 「ふふ、どうやったら夢から醒めるのかしらね」  「でも、今度は私が死ぬことはなさそう」妻はそう言って、鈴音みたいな声で泣き声を上げた。このゲームの中で、妻は不老不死なのだ。妻は眠ることもなく、いつも人を殺す指示を出す。  私達はこのゲームの司令官だった。  私達の送り出した仲間たちを、勇者の名前を冠ったプレイヤーが殺していく。妻が指示を出さないとこのゲームは成り立たない。でも、妻はどうやらもうこの役目にうんざりしているらしい。  私達のいる管理室の窓からは、妻が指示している仲間たちと、勇者との戦争の様子が見えている。  妻は仲間が一人死ぬたびに泣いていた。でも仕方がないから、減った分の仲間をまた戦場に送り出す。私の役割は妻の補佐だから、私はそれを変わってあげられない。 ──もしも  ふと、何かを思い出す。思い出したのは何処かで聞いたことがあるような、高帽子の男が道の上に立っているシーンだった。夕暮れの中で、高帽子が笑う。 「……今度は、勝てそうかい?」 「勝てっこない。私達が勝てる仕様にはなってないのよ、このゲーム。もうどうしたってこの戦争は終わらないの……」 「そんなことはない。終わらせられるよ」  苦いセリフを吐く私に、妻は激昂する。苦し気に、顔を歪ませる。そんな顔は見たくなかった。 「どうやってよ! 私がもう何人殺してきたかあなたも知ってるでしょ……? もう嫌なのに、こんなこともうしたくないのに……! 終わりようがないの。もうどうしようもないの。この戦争は私が指示を止めない限り──」  驚いたように目を見開いた妻が私を見る。  だから、私は言う。もういいよと、自然と口が動く。  初めて争いの消えた世界は、静かだった。生きる役目を放棄した私達は、無責任に逢瀬を交わす。妻の手が、静かに私の手を握った。 「こんなことして、きっと地獄に落ちるわね」  幸せそうに笑って、妻が最期に言う。  役に立たなくなった私達を見て、プレイヤーがリセットボタンを押す。世界が終わる。
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