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その日は昼から飲み会をする約束だった。飲み会と言っても最近流行りのリモート飲み会というやつで、子育ての忙しい友人の為に飲み物はノンアルコールと決めて集まることにしたである。私はいまだに独身で仕事が恋人状態なので子育てとかよくわからないが、とにかく人と会話をしたいと思ったので参加した。彼氏もペットもいない暮らしで一言もしゃべらない日が多くなり苦痛だった。なので画面越しにみんなの顔を見た時、安心して泣きそうになった。高校の時からの友人たちは年をとっても変わらず、元気そうだった。
「みんな久しぶりだね。」
「変わらないねえ!」
「本当にね。」
口々に話し出した。みんな吐き出したいことがたまっていたのだろう。2時間経っても会話が途切れることはなかった。子育ての苦労や、旦那さんへの愚痴、仕事への不満など話題は尽きない。私もいい加減結婚したいなあと呟くと、誰ともなく、
「式には呼んで!あんたのウエディングドレス見たいし!」
「私も~!」
「私も行きたい!」
という。
「みんなありがとう~。でもあと何年後になるかわからないし~!」
「そんなこと言って~。実はいい人いるんでしょー?」
「いいなあ。私もデートとかしてたあの頃に戻りたい・・・。」
「あんたの旦那さんいい人じゃない。あー、青春の頃に戻りたい!」
私は否定の言葉を並べる。
「そんな人いないよー。いい人いたら紹介してほしいぐらいだもん。こんな引きこもってる生活じゃ出会えるものも出会えないよー。私も早く結婚したなあ・・・。一人暮らしだと本当にしゃべることなくてさ。この前なんてテレビに話しかけてたよ・・・。」
言い終わってから私はなんだか静まっているのに気づいた。あんなに途切れることがなかったのに、今では誰も言葉を発していない。どうしたのだろうか。私は画面をのぞき込んだ。みんなの顔がわずかに青ざめている。
「みんなどうしたの?なんか暗いけど・・・。」
「あ、ごめん、私ちょっと子供が起きたから抜けるね。また連絡する。」
「私もそろそろご飯の用意しなきゃ・・・。またね。」
「え、ちょっと・・・どうしたの?」
二人が立て続けに抜けた。何かおかしいと思ったので、残った一人を問い詰めた。
「ねえ、何があったの?おかしいよね、みんな急に黙るし・・・。」
「・・・・わかった話すよ。その前に一つ確認していい?」
「何?」
「本当に一人暮らしなんだよね?」
「うん、そうだけど・・・。」
「あのね、みんなで話し始めた時に、声が聞こえたの・・・・あんたの部屋から。」
「声?」
「男の人の声・・・・。」
「他の子たちの旦那さんとかじゃないの?」
「違うの・・・だって、その声、はっきりと言ったんだもの。」
「なんて?」
その子は青ざめた顔で口を開いた。
「×××、おはようって・・・。あんたの名前呼んだの。」
私は声が出なかった。どういうことだろうか。この部屋には、私しかいないはずなのに。
「それじゃあね。」
そう言って、彼女も抜けた。私は動けなかった。見てしまったのだ。カメラ越しに。画面の端っこに映った男の人の腕を。その手が今にもこちらへ伸びているのを———。
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