蜘蛛の巣

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長い冬眠から目覚めた電車がノロノロと、しかし、着実に乗客たちを拾い上げていきます。日常が少しずつ帰ってきました。退屈で、憂鬱な朝には違いありませんが、しかし、こんなにも喜ばしい退屈な朝は何ヶ月ぶりでしょうか? 私は久しぶりに電車に揺られながら、そんなことを思いました。 (何か変化はあるのかしらん?ささいな、けれど、大きな変化は?) 心の中でそう思った私は、辺りを見渡しました。そこには数ヶ月前に見ていた景色と何ら変わりない光景が広がっていました。乗客の多くは手元のスマートフォンに眼を奪われ、何やら懸命に、その小さな世界で繰り広げられている出来事に心を奪われていました。その他の乗客たちも眼を瞑っていたり、本を読んでいたりしていました。 (うん、どうやらあんまり変わりはないみたいだな) 私は少し残念に思いながら、人間を観察するのをやめ、もっと別のものを観察し始めました。 (何か他に変わったことはあるかしらん?) 私は車窓から外の景色を眺め始めました。そこには綺麗に稲が並べられた水田があり、水面は太陽の光を浴びてキラキラと光っていました。 (そうか、もう田植えの季節は終わってしまったのか)
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