今日私はあなたとの婚約を解消します。

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 私たち、カライの民は生まれた時は皆、男の子として生まれる。  一定の年齢になると、恋をして、この人の子を産みたいと想い、女性になるもの。子を産ませたいと想い、男性体に成熟する者に分かれる。  具体的には、女性になるとは月経がきて、胸が膨らんできて、男性らしさがなくなっていく。男性になるとは射精が始まり、声変わりしていく。  私は物心付いた時から、可愛いものが好きだった。みんなはズボンを好んで履いていたのに、私はスカートを履くのが好きだった。だから、私は思ったんだ。私はきっと将来女性体に変化するのだろうと。 「フォート。お誕生日おめでとう!さあ、願いを言って」  金髪の美しい幼馴染は私の言葉に微笑む。  私が持っているどんなものよりも美しくて、可愛くて、見惚れてしまう。  そんな私へ、フォートは願いを告げた。 「カトカ。僕はこのまま男性体になりたいんだ。だから、僕の婚約者になってくれないか」  透けるような青色の瞳に見つめられ、惚けたまま頷く。  私はフォートが好きだったから、その申し出がとても嬉しかった。 ☆  どくんと下半身が熱くなって、私は目を覚ます。  そして絶望的な気分になった。  汚れた下着とベッドカバーを片付けて、さっと体を拭いてからドレスを身につけた。  もう十六歳なのに、膨らまない胸に来ない月経。  けれども、私の婚約者はすでに決まっているので周りはみんな優しい。  時がくれば……と、そう言ってくれる。  本当は時はすでに来ているのに、私は誰にも告白できずにいた。  婚約者のフォートにすら。  いや、フォートにだけは知られてはいけない。  知られたら、気づかれてしまったら嫌われてしまう。  私が、あなたを抱きたいと思っているなんて。  だから、今日、私はあなたとの婚約を解消する。  男性体になりたい、もしかしたら男性体になっているかもしれない彼にとって、私の願いはとても受け入れられないもの。  どうしてなんだろう。  いつからなんだろう。  声も最近はちょっとおかしい。風邪を引いていると誤魔化していたけど、もう限界。  体も少しずつ変わり始めている。  男性体へ。  私は女性としてではなく、男性としてフォートに恋してしまったようだ。  しかも、フォートを女性体としてみている。  こんな想い、彼に知られてはいけない。  だから、今日、私は婚約を解消する。 ☆ 「カトカ」  私を見つけてくれたフォートは、魅力的に微笑む。それからすぐに隣にやってきて、エスコートしてくれた。背の高さは同じ。だから、私は踵のない靴を履いている。胸がいつまでたっても膨らまない私。詰め物をしてそれらしく、淑女に仕上がっている。  すでに私の体は男性体へ変化しつつあって、女性体になんてもう成れないのに。  フォートの顔立ちは相変わらず中性的で美しい。体つきは男性体にはほぼ遠い。けれども女性的膨らみなどそこにはない。  男性化が始まり、私は思わずフォートに女性的要素を探してしまったことがあったけど、見つけられなかった。胸は平らで、お尻に丸みが足らない。  だから、彼はまだどちらにも変化してないか、男性体への変化が始まっているか、そのどちらからだ。  私たちはすでに十六歳になっていて、同じ年の子達はみな性別が決まっている。  恋した相手に合わせるように。  どうして、私は……。  女性体に変化して、フォートを男性として愛することができれば……。  そう願うけれども、もう遅い。  私の男性化は始まっていて、隠すのはもう限界だ。  だから、まだ女性として見られてるうちに、私はフォートとの婚約を解消する。   「カトカ?」 「フォート。今日はお願いがあるの」 「な、何かな?」  フォートの青色の瞳に陰が帯びる。  もうすでに私の願いが分かっているのか。  知られているわけがないのに。 「婚約を解消してほしいの」 「なぜ?」 「理由は言えない。言いたくない。ごめん」  言い訳をいくつも考えたけど、どれもしっくりと来なくて、浮気相手をでっち上げる気もなかった。   「……僕が、男らしくないから?」 「そ、そんなことない」  なんで、そんな。  彼が伸びない身長のことで悩んでいるのは知っていた。だけど、理由は違うから。 「いや、違わない。カトカは男らしくない僕に愛想をつかせたんだ。そして、あの人を好きになった」 「あの人?」  フォートは何を言っているの? 「カトカの様子がおかしくて、ちょっと隠れて君の家に行ったことがある。そしたら、男の人がいた。カトカの部屋に。同じ髪色だったから、親戚かと思ったけど、君の親戚に黒髪の男はいないだろう?」 「黒髪の男……」    そういわれて思い出したのは、あの時だ。  男性化が始まったことに気がついて、そっと父上の服を借りたことがあった。  父上の服を着た私は、完全に男性に見えた。だから怖くなってすぐに脱いだんだけど。まさか、そんなところを見られていたなんて……。 「フォート。あれは、」  あれは私。  そう言い掛けて、私は言葉を止める。  フォートは険しい表情をしたままで、どう見ても疑われている。  私はフォートが好きだ。  だから……。  嫌われてもいい。  裏切ったと思われるよりもずっとそのほうがいい。  そう心を決める。 「……フォート。正直に話すから。私は、もう女性にはなれないんだ。男性化が始まっていて……。あなたが見た彼は……私なんだ」 「カトカ、あれがカトカ?」  フォートは呆然とした後、なぜか顔を赤らめた。 「だから、あなたの婚約者を続けられない。だって、私は女性じゃないから」 「カトカ!」  急にフォートが私を抱きしめた。  ふわりと広がる花の匂い、そしてやわらかい感触。 「……ごめん。嬉しい。でも僕は卑怯だ」 「フォート?」 「僕はばれなければいいと思った。性別なんて関係ないって。だから、僕は女性化しつつあるのに、君にずっと黙っていた。だって、それを知ったら君が離れていってしまうと思ったから」 「フォート」  フォートが女性化?  ということは? 「カトカ。君の子どもを産ませて」  彼は、いや、彼女はそう言うと私にキスをした。  キスは何度かしたことあったのに、彼女とのキスはとても甘くて頭の中が蕩けそうだった。  --FIN--
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