<ドレニスル?>

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<ドレニスル?>

手元のスマホから顔を上げるとタキシードの男がニッコリと微笑んでいる。 「えーっと、で?」 「如何いたしましょう?」 「いたしましょう?とは?」 黒歴史を発掘陳列されて、この上なくダメージを受けている。いわば、HPが0に近い。 誰か回復魔法を、もしくは薬草とか欲しいレベルなのに目の前のタキシード男は相変わらず満面の笑みだ。その笑みはとても胡散臭いが・・・ 「アプリにございます交代チケットをタップしお好きな過去を選んで頂きますと"あなた"が選ばれた側となりそこからやり直しができます」 「手の込んだドッキリなんじゃないんですか?」 タキシード男はふっと笑うと 「本当はドッキリではないとわかっていらっしゃるのでしょう?」 その通り。 私を嵌めるだけでこんな手の込んだ仕掛けをするとは思えない、タレントさんにドッキリを仕掛けるテレビ番組じゃないんだから。 世の中にはびっくりするような不思議があるのかもしれない。 まさしく事実は小説より奇なりだ。 十個の失恋はいずれも最後は悲しくて悔しいことばかりだけど、始まりはいつだって幸せではあった。 「使わない」 タキシード男は一瞬驚いた顔をしたがすぐに真顔になり 「何故ですか?チケットをお使いになれば今頃は違う人生になって幸せになっているかもしれませんよ?」 「交代したとして、それがずっと続くとは限らないですよね?また誰かが現れてそこで振られるかもしれないし、それ以前にわたしが替わることで替った人が私のような思いをするということでしょ?だったら、今のまでいいです」 「本当に宜しいのですか?もしかするとあなたを選んだことにより、あなたへの理解が深まり愛が深くなることもあるかも知れませんよ?」 そういう事もあるかもしれない。 でも、この十個の恋は既に諦め、忘れていたもの。『どれか』を選ぶならリストにないユタカ君に会いたい。 会ったら「冗談だバーカ!」って言ってやりたいかも。 「このチケットは必要ありません」 キッパリと断りを入れてからアプリを削除すると一瞬にして喧騒が戻ってきた。
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