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ざあざあ、ばちばち。
放課後の下駄箱で河江 凜美は一人、空を見上げていた。
「雨が降るなんて聞いてないよ…」
普段は澄んだ青色をしている空も今日は厚い雲に覆われて灰色、さらに針のような雨が激しい音を立てて地面を濡らしている。
「傘持ってないのに、どうしよう」
今日に限って用事があるからと友達には先に帰ってもらった。
つまり、一緒に帰る相手がいないのである。
「はあ…」
口から出るのはため息と嘆きばかり、先ほどから一歩も動けていない。
───長靴はいいとして、お気に入りの袴と着物が濡れるのは嫌だなあ。
凜美の家は学校からまあまあ距離があり、走ったとしても家に着く頃には全身ずぶ濡れになっているだろう。
しかし雨は止む気配がまったくない。それどころか逆に強くなっている気がする。まるで凜美をあざ笑うかのように。
「鞄を傘にして帰るしかないかな…」
このまま待っていても埒が明かない。凜美が諦めて持っている鞄を頭上に上げた。
───その時、前から黒いこうもり傘が近づいてきた。やがてこうもり傘は凜美の目の前で止まる。
「まだ帰ってなかったのか」
「晴志さん!」
聞き慣れた声にパッと表情が綻ぶ。同時にこうもり傘が上がり、そこには鞄を持った長身の男子が立っていた。栗色の双眸が驚いたように彼女を見ている。
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