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横で楽しそうに話をする晴志を見ながら凜美は"将来医師になりたい"と前に彼が言っていたのを思い出して笑みを零す。
───すると、彼が急に足を止めた。慌てて凜美も足を止める。
「晴志さん?」
「…凜美、実は話していなかったんだけれど」
先ほどまで笑顔だった顔が暗い。声もやけに低く真剣で嫌な予感がした。違う意味で心臓が大きく拍動を繰り返す。
「実はオレ、」
「待って、言わないで。言わないでください」
咄嗟に彼の言葉を遮る。この先を聞いたらいけない気がした。
それでも彼の言葉は止まらない。
「留学することになった。医学生代表として英国へ行く」
「そん、な…」
その瞬間、周りの音が聞こえなくなる。激しく降る雨の音でさえ無音だ。
───彼が、晴志さんが留学、英国に行ってしまう。
「すまない。でも学校だけでは分からないことばかりで、このままじゃ人を救う医師になんてなれない。医師になるためには現地で学ぶことが一番の近道なんだ」
「あ…」
じわじわと視界がぼやけて来て、目じりに雫が溜まる。
「凜美…黙っていて本当に悪いと思っている。必ず戻るから許してくれないか」
一つ二つ、水晶の粒のような涙を晴志の大きな手が救う。溢れた涙は止まることを知らない。
「いつ、行くんですか」
「二週間後、午前中の便で」
「に、二週間後ってあと少ししかないじゃないですか」
引っ込みかけていた涙が再び流れる。
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