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「ね? 名前」
再度催促されるように言われて、私は今度こそあからさまに盛大な溜め息をついてやった。
「あなたに教える名前なんて持ち合わせておりません。どうかお引き取りを」
言ったついでにギュッと力を入れて手を引いてみたけれどやっぱり腕、振り解けなかった。
「いい加減痛いんですけど」
それに時間もないっ。
握られた手に、もう一方の手を添えて引き剥がそうと頑張りながら睨みつけたら、「ちょっとそれゾクゾクするんだけど」って本当この人、馬鹿なの?
「おっと」
私の反応なんてお構いなしにそう言った彼に、不意に手をグイッと引っ張られて腰を抱かれる形になった私は、驚いて思いっきり彼の胸元を叩いた。
抱き寄せられた拍子に、ビクッとなって肩に掛けていたショルダーバッグを落としてしまった。
と、その荷物のすぐ横を自転車が通過していって、ドキッとしてしまう。
もしかして彼、それから守ってくれた?
「もう少し食べた方がいいね、凜子ちゃん」
少しはいいところもあるのかも?と見直しそうになった途端、それを払拭するように腰からヒップにかけてのラインをさわさわと撫でさすられて、私はゾクッと身体を震わせる。
「この変態! 離してっ!」
言ってから、ん?と思う。今この男、私の名前、呼ばなかった?
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