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「――べっ、別に怒ってませんっ」
唇を噛み締めてそう吐き出したら、悔しさのせいかもっともっと視界が霞んで。
そんな私に、「そっか」って何もかもお見通しみたいに奏芽さんがうなずくの。
そこで信号が青になって、奏芽さんの手が呆気なく私から離れる。
その瞬間、思わず「待って」って思ってしまって、私はそれが恥ずかしくて唇を噛み締めた。
***
どこか無理矢理運転に集中するように前方を見つめたまま奏芽さんが続けるの。
「けどさ、……何だろ。さっき凜子に……俺にもチャンスがあるかもって言葉をはっきりもらった瞬間、どうしようもなく嬉しいって思っちまって。――自分からそうなるように仕向けといてバカかって思われるかも知んねえけど……そんな風に思ったことに正直めちゃくちゃ戸惑ったんだよ」
その衝動が自分でも初めてで、訳が分からなくて困惑したのだと奏芽さんが言う。
あの「なんだ、これ」はそういう意味だったのねって思ったら、何だか今更のように照れてしまった。
「凜子が結論を出すまで待つとか余裕ぶったこと言ったくせに、待ってられるか、奪わせろって言いたくなっちまって――正直自分でもびっくりしてるんだわ」
眉根を寄せて自嘲気味につぶやかれた言葉に、私は瞳を見開いた。
ねぇ奏芽さん、それって「お前は特別だ」って告白に聞こえてドキドキしてしまうんだけど……無自覚なの?
そんな風に言われた訳じゃないけれど、そう錯覚するのに十分な言葉で。
「なあ、このもやもやした気持ち、何なんだろうな?」
いきなり困惑したような声でそう問いかけられて、私は思わず奏芽さんの横顔を見た。
感情が昂りすぎて、ポロポロと涙が頬を伝うけれど、もうそんなのどうでもいいって思ってしまった――。
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