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その笑みにつられるように思わず小さくうなずいた私に、奏芽さんがどこかホッとしたように「じゃ、一応席空いてるか電話してみるな?」って言って、ダッシュボード上のスマホスタンドから携帯を手に取った。
その間も、ずっと右手は私の手を離さないまま。
まるで大切な卵を温める親鳥みたいに、大きな手で私の握り込んだままの冷え切った両こぶしを包み込んでくれているの。
「もしもし雨宮? ――鳥飼だけど……。うん。……なぁ、今から2人、大丈夫? ……あ? そう、だから2人だって。何度も確認してくんな」
二言三言電話先の相手――雨宮さん?と会話を交わしてから通話を切ると、「OKだって」と私の手をぽんぽん、と優しく叩く。
私はそこで初めて自分の格好を見て、
「あ、あのっ、私こんな格好のままで大丈夫でしょうか?」
ソワソワと彼を見つめた。
袖口がフレアスリーブになった、胸元ロゴ入りのシンプルなベージュのTシャツ。
それに、黒のサスペンダーパンツ。
いわゆる、大学に行くためのコーディネート。
おまけにカバンも勉強道具のみっちり詰まった大きな帆布のショルダーバッグで。
和懐石のお店って……こんな服装の子が入っても平気なの?
恐る恐る見詰めた視線の先、奏芽さんが瞳を見開いたのが分かった。
「……俺、スーツに見える?」
言われて見た奏芽さんは、グレーのTシャツにネイビーのシャツを羽織っていて、ズボンは白。
スーツでは……ない。
「気取った店じゃねぇし、大丈夫だよ。けど――」
そこで私の頭をクシャリと撫でると、「凜子が気になるってんなら一旦家まで連れて帰ってやるよ。どうする?」
聞かれて、私は考えた。
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