私、どうしようもなく奏芽さんが

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 初めて――。  そう、初めて!  私、この融通のきかなさを掛け()なしに褒められた気がする。  子供の頃からの、歴代のクラス担任たちからでさえ、「それが向井さんの長所だと思うけど、もう少し肩の力を抜いてもいいんじゃない?」って、まるで諸刃(もろは)(つるぎ)みたいに指摘され続けてきたことだった。  生まれて初めて「でも」とか「だけど」とか逆説なしに、純粋に私の「そこが気に入っている」と褒めてくれる人に出会えて、しかもそれを言ってくれたのが奏芽(かなめ)さんとか。  泣きたいくらいに嬉しい!って思って、同時に私、奏芽さんも本人の自己評価ほど酷い人ではないのに!って強く強く思ったの。  確かに奏芽さんには横紙破りでゴーイングマイウェイなところがあると思う。  見た目の影響もあって、私も最初はチャランポランでわがまま放題に人を振り回すだけのどうしようもない人だと思って、奏芽さんのことが大嫌いだった。  でも、そんな彼と接すれば接するほど、強引にしか感じられなかった彼が、実はここだけはってところは押さえてくれる人なんだっていうのが分かってきて。  だからこそ私、気が付いたらこんなにも奏芽さんに心奪われていたんだと思うの。  それを、いま自分がそうされて嬉しかったみたいに彼にも伝えてあげたいって思った。  でも、それは“彼のことを好きだという告白とセット”な気がして、今の私では素直に奏芽さんに言ってあげることが出来ないの。  それが物凄くもどかしくて――。
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